押し潰されそうな… ~sideA~
昨日、ルークの元カノと話した後、予定通りルークとの待ち合わせに向かった私は、直前の出来事を引きずっていたせいで、必要以上にルークに厳しい態度をとってしまった。いつもなら口を噤んで冷静になるまで待つけれど、どうにも止まらなかったのだ。
それでも、ルークはきちんと家まで送ってくれた。沈み混むような気まずい沈黙を破るように、去り際ルークは「お互い頭を冷やそう」と、呟いた。一瞬意味をとりかねたが、今日は別々に帰ろうと言うことだったようだ。
こんなこと言うと薄情だけど、その事に少しだけホッとした自分がいた。
これまでは仕事で残業しない日なんか無いくらいだったのに、最近ルークとの時間を持つために、定時で上がるようにしていたせいか、予定が無い今日も、これまでのように終業後に仕事をする気になれなかった。不意に空いた時間を埋めるように私は、特に当てもなく町をぶらつくことにした。
そこで、偶然見かけたのだ。ルークとキャサリンを。
まさか二人の間に何かあるなんて疑ってはいない。
キャサリンは親友だし、ルークは私の恋人で、二人とも私にとってとても大切な人たちだ。
あ、やっぱりと心の奥底で呟いた自分がいたのも事実だったのだ。心の中で沸き上がる劣等感。
キャサリンは、明るくて、可愛くて、私なんかより一緒にいて遥かに楽しい人だ。そして、実家は裕福な薬屋。こんな堅物で面白味もなく、後ろ楯になるような実家もない私とは比べるべくもない人なのだ。
自分の頭によぎった不安を、否定しきれなかった私は、二人が入っていったカフェ――――カップルに大人気の、前を挙動不審に行ったり来たりした後、うじうじ悩むぐらいなら、と覚悟を決めて二人に直接訪ねることにした。
案外何でもないことで、きっと二人は笑い飛ばしてくれるはず。ぎゅっと拳を握り込んだ。
(大丈夫、大丈夫…)
そうして入った店内で、二人は角の窓際の席に座っていた。キャサリンは私に背を向けているので、表情は見えない。ルークも話に集中しているのか、こちらに気づく様子はない。
ルークは私と二人でいる時よりよほど身振り手振りも、表情も豊かに見えて、少し足がすくんだが、ルークが顔を伏せた瞬間に思いきって二人に近づいた。
そして、聞こえてきた言葉に、心臓が凍りついた気がした。
「こんなに好きなのに、今更他の女に目が行くわけないだろー…」
その後こぼれた言葉は本当に無意識だった。
「ねぇ、それ、どういうこと?」
びっくりして振り返ったキャサリンと、ルークの表情を見て、悟る。
あぁ、不安が的中してしまったと。
足元が崩れていくような感覚に流されてしまわないように、ゆっくりと目をつぶった。




