突然の訪問者 ~sideR~
ピンポーン
本日二度目の呼び鈴に嫌な予感しかしない。第一もうすぐ外出する時間だ。
手に持った鞄を一度床に下ろし、息をひそめる。
(居留守を使うか?)
その考えを読むかのようにもう一度呼び鈴が鳴る。軽く舌打ちをして時計を見る。
まぁいい。誰でも、追い返せば済むことだ。
やれやれと玄関に向かう。
そして、扉を開けて絶句した。
「アイリス?」
「あ、あの。ごめんなさい。ちょっと早く準備ができたから」
髪をいじりながら、恥ずかしそうに俯く彼女から視線が外せない。
いつも固く結い上げられている髪は半分は複雑な編み込みの形に、残りの半分は下ろされて、緩やかにかかったウェーブが背中に流れている。いつもはどちらかと言うと隙のない感じのブラウスにスカートが多い彼女は、少し頼りない柔らかそうな生地のワンピースを着ている。化粧だって、普段は辛うじて白粉をはたいたくらいの軽いものしかしていないのに、今日は目元までばっちり作りこまれている。
何と言うか、いつもは極力感じさせないようにしている女性らしさを前面に押し出すような格好に眩暈がした。
(キャサリンか!?キャサリンなのか!??嘘だろ。さっき来たとこじゃないか)
心の中で絶叫する。晩熟だと思っていた彼女の意外な行動力に驚きだ。本当に勘弁してほしい。
男の意地で、態度には微塵も出さないが、驚き過ぎてなんて声をかけたらいいのかわからなかった。
しかし、彼女もギリギリなのか、俯いたまま顔を上げない。ここで一旦帰れとか、待ち合わせは現地だろ、なんて言えば、こじれること間違いなしだ。大体、彼女に泣かれるのは本当に勘弁してほしいのだ。
アイリスにばれないようにゆっくり深呼吸する。
「……折角来たんだ。なんか飲んでくか?」
「……うん!」
俺の言葉に、嬉しそうに笑うアイリス。可愛い、可愛いが、ちょっと自重してくれ。
消去法で家にあげるしか選べなかった俺は、自分の理性が持つことを切に願う。本当に、本当に泣かせたくないんだ。そして、泣いた彼女に対して余計に煽られやしないかと、自分で自分が信用ならない。
不安しかないが、無情にも玄関のドアは音を立ててしまってしまった。
(頑張れ、俺)




