シケ顔とはアルカイックスマイルのことではないか?
シケた顔のことをシケ顔などと呼ぶらしい。
アニメ的表現で言えば、目は線のように細くなり、口元はだらしなく緩んでいる。
ジト目の亜種でもあるといわれるが、わたしはそこに霊性を見た。
仏像における口元に笑みを浮かべた、なんとも形容しがたい表情。
アルカイックスマイルを思い浮かべた。
ほんの20年ほど前なんだけど、アルカイックスマイルを浮かべるキャラの筆頭は、
エヴァンゲリオンのカヲル君だった。
なんともアヤシイ感じの。
あやうい感じの笑み。
シンジくんは、そこに霊性を見たのだと思う。
つまり、他者からの優しさを感じた。テレビ版だけどね。
カヲル君はリリンである人類の文化をベタ褒めする。
つまり、人類かわいいと表現してくれる。シンジくんを好きだと言ってくれる。
優しさの根源とは母性であるから、カヲルくんは肉体的には男性だけれども、
母親的な無限に許されている感覚を得たといってもいいだろう。
シンジくん、マザコンだものね。
エヴァは母親で、母親の胎内に帰りたいみたいな解釈も、成り立たんでもない。
まあ、男はだいたいマザコンなので、その解釈はおそらく正しい。
カヲルくんがアルカイックスマイルを浮かべるたびに、男どもはきゅんきゅんしてたってわけ。
無意識下での話だけどね。ホモとかそういう話でないのはわかるよね?
んで、シケ顔なんだけど。
たぶんこれもアルカイックスマイルなんだろうと思う。
シンジくんの場合は、母親がエヴァにとりこまれたというトラウマが母親を強く求める要因となったわけなんだけど、
そうではなくても、社会というものは母と子を切り離すように作用している。
なんとなれば、「学園」までは、みんな平等に愛されているというようなメッセージを発しているものだけれども、
「社会」となれば、みんな自分の足で立って歩くことを強要されているから。
つまり、母親から離れなさいってなるわけで。
なんだろう。いきなり母性原理から父性原理に切り替わる。それが卒業というイベントなわけだ。
女子高生とかが化粧を高校までは許されないけれど、働き始めたら『マナー』として、化粧しなさいっていわれるのも同じ理由かな。
彼女たちは、高校までは『子ども』であるという役割を圧しつけられている。
対して、仕事を始めれば、化粧という武装をすることを、母離れを強要されているのだろう。
シケ顔が好きっていうのは、要するにマザコンの言葉なのではないかと思う。
本来、アルカイックスマイルは、カヲル君が浮かべた笑みである妖しさをまとっている。
これは、『もしかしたら敵かもしれない』といった意味も含んでいる。
シンジくんはカヲルくんが使徒であることを知らないわけだけど、
なんとなくそうかもしれないという雰囲気は感じ取っている。
本来は――。
すなわち、アルカイックスマイルの意味は、多義的なものである。
敵か味方か。殺意を秘めているのか、それとも母のような慈愛を秘めているのかはわからない。
ただ、それを愛されていると信じたい。
母親から存在を許されていると信じたい。
それが男性視聴者の欲望である。
シケ顔に、許されているという解釈を施したいのである。
なので、男はシケ顔が好きなのかもしれない。
小説でシケ顔を表現するのって難しいね。
ジト目はまだわかるんだけどね。