第8話《術式解放》
二つの刃が、交錯した。
触れる刃の感触から、メリアの力が伝わってくる。
メリアの魔闘級は、俺を省けばここの誰よりも高い。つい先ほどまで認識していた数値よりも、遥かに上回っている。
かつて神魔竜グラナスと喧嘩をした時に、最強クラスの術式をお目にしたことがある。老練の技がなせるものなのか、若輩者の俺には編み出せなかったほどの代物であった。
現在、メリアが編み込んでいる術式は、それをはるかに上回るものであった。
ましてやメリアは、神魔竜グラナスの肉体を超越している。それゆえに魔闘級の跳ね上がり方が半端ではなかった。
――少しばかり、面白くなってきた。
力を抑え込んだ状態で、メリアを制するのは骨が折れるだろう。
遊び相手には、ちょうど良かった。
俺は純粋に、静かに暮らしたいだけで、闘うこと自体は嫌いではない。
ただ俺のレベルに到達できるものがいないというだけで、楽しませてくれる相手と闘うのはむしろ大好きだ。
「どうして、私じゃ満足してくれないんですかぁッ!」
「いやいや。今のお前は、とても魅力的やで。もっと、俺を楽しませてくれ」
傍から見れば、嫌味に聞こえたかもしれない。
少なくとも、いまのメリアにはそう聞こえているだろう。だからこそ、良いのだ。怒りが彼女を強くするのならば、とことんまで強くなってもらおうではないか。
――術式解放。
魔力:魔天狼
解放レベル:弱
スロット数:3
【魔人煉獄】【世界樹】【錬金モード:槍】
解放時間:10秒
魔力とは、術式の元になるものだ。
今回は魔天狼の魔力を、ベースに使わせてもらうことにした。俺はあらゆる魔力の質を、模写ができるのだ。
スロットには、別の魔術を組み込むことができる。
その数は術者の力量で決まるのだが、控えめに三つだけにしておいた。
俺の手元には、燃えさかる槍が出現している。
さらに探知を発動させて、メリアの術式を解読する。
魔力:神魔竜
解放レベル:Max
スロット数:5
【錬金モード:剣】【金剛力】【爆裂連撃】【魔力強奪】【無限供給】
解放時間:無制限
思ったとおりに、チートを詰め込んでいるな。
俺の術式で生み出した刃よりも、メリアの術式のほうが上を行っている。
まぁ、負ける気はしないがな。
大地転翔を仕込んだときに、別の術式も一緒に付与しているのだ。
発動タイミングは、こちらの任意で行えるようにしておいた。メリアの周囲を、無数の大地転翔が発動している。単細胞を相手にするときは、力よりも知略を巡らせておいた方が効果的である。弾け飛ぶメリアに、術式で生み出した槍を投げつけた。
巨大化して、分裂する無数の槍をもろに喰らって、メリアは弾け飛んだ。
加減をしているので、ダメージはほとんどないだろうな。目的は力を削ぐことであって、倒すことではない。
メリアのスロットに設定されているスキルに、【魔力強奪】があるのでわざと吸わせたのだ。
【無限供給】と【爆裂連撃】に、俺の【魔人煉獄】が引火するはずだ。
数秒の間があいて、メリアは落下しながら爆発に巻き込まれていた。それも一度ではなく、何度も何度も連続しておきている。
その回数は、1秒間におよそ五万回ほどだ。
何度も言うが、加減はしている。
メリアの闘級から逆算して、無傷でいられる威力に設定している。とはいえ、爆発は永遠に続くのだ。
なのでメリアは、術式を解除するしかなかった。
案の上だが、無傷でこちらを見ている。
「コモさま。メリアは、哀しいですよぉ~」
腰に提げた竜皇剣ケイオスグリュードを、抜刀している。
どうやら、まだやる気のようだ。
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