第6話《魔人族のメリッサ》
とりあえずは、ボリスの撃退には成功した。
辺りを見回しても、メリアの姿はおろか気配すら感じられない。信じられないことだが、この俺の探知から完全に逃れているのだ。さきほど背後を取られた時も、尋常ではないほどの魔闘級を感じた。
エルザが入れ知恵したのだろうが、メリアの成長速度は異様である。
通常時のメリアの力は、力を抑制している時の俺よりも強かった。俺の力は爺ちゃんの作ったブレスレット・指輪・ピアス・アンクレット・ガントレットによって、五段階の封印が施されている。
メリアを倒すには、1段階目の封印を解く必要がある。けれども今のメリアの力を考慮すると、2段階目の封印を解かなければ厳しそうである。
オカンの策略に、まんまと乗せられているのだろうが、メリアは単細胞だ。どんな些細なことでも、馬鹿正直に鵜吞みにする。それが短所でもあり、長所でもある。
回復系の魔術は苦手ではあるが、その辺の僧侶よりは解呪に自身がある。さきほどから、メリアから受けた傷が完治しないのだ。ダメージを負わされたうえに、呪いの類いを付与されている。エルザが与えた術式なのだろうが、解読ができないでいた。
「今度はアチキと、遊んでくれますかい?」
好戦的な笑みを浮かべて、魔人族の少女――メリッサが問いかける。
可愛らしい顔をしていた。短く切られた髪は、燃えるように赤い。吸い込まれそうな碧眼が、こちらを睨みつけている。さきほどのボリスよりは強いが、さほどの脅威ではなかった。
女の子を攻撃することには、かなりの抵抗があるのですこしばかり困ってはいる。
何らかの方法で、無力化しなければならない。となれば、こちらも援軍に頼るしかないな。
「コモ・エスタの名に於いて、汝らに命ずる。永久の盟約により、我が脅威を祓い給え」
呪文を詠唱をして、十字印を切る。光の円陣が生み出されて、2体の霊獣が顕現れた。
黒狼竜ハウゾウと、白猫竜ハウタである。彼女たちは、生まれてすぐに生死の境を彷徨っていた。詳しい経緯までは知らないが、生まれたばかりの命が消えていくのは忍びなかった。
なので魔力を分け与えて、俺の眷属にしたのだ。
彼女たちは強いので、今回みたいに闘いたくない相手をまえにした時に役に立つのだ。
「兄上。お呼びでござるか?」
「コモ、呼んだぁ?」
ハウゾウは何故か、武士に憧れている。なので、そんな感じの口調になってしまった。
ハウタは天然である。
「あそこの女の子を、倒して欲しいねん。できるだけ、傷付けずにやって欲しい」
「任せるんに!」
「御意でござるよ!」
ふたりとも、元気が良いなぁ。
メリッサに目掛けて、同時に突進している。雄叫びをあげて、ハウゾウが炎の吐息を吐いた。
黒炎に包まれるメリッサに、ハウタが鋭い牙を剥けた。
「ずいぶんと、舐めてくれるじゃねぇか?」
余裕の声が、背後から聞こえてきた。
転移系の術式を、メリッサは持っているようだ。攻撃を受ける瞬間に、空間転移をして俺の背後をとっていた。さすがは勇者クラスの生徒なだけはあるな。そう簡単には、やられてくれないようだ。
後ろから、羽交い絞めにされてしまった。
年頃の女子が自ら、男子に抱きつくとはハレンチなものだ。さっさと離脱しなければ、メリアが嫉妬してしまう。なんせ、メリアは俺にベタ惚れだ。
「さぁ、コモさま。アチキといっちょ、力試しといこうか?」
「出来れば、別の人としてもらえんやろか」
全身を絞めつける力が、半端ではない。
魔人族の強靭な肉体に、エルザの編んだ術式が付与されているようだ。女の子とは思えないほどの重量が、全身に圧し掛かっている。
――重力絞殺。
羽交い絞めにしながら、重力操作の術式を発動しているようだ。余りの重圧に、大地が沈み出している。
シンプルだが、何気に堪えるな。
「クラスメートとの触れ合いを、もう少し楽しんでくれよ。それとも、アチキみたいな女は嫌いかい?」
「耳元で、囁かんといて!」
耳に触れる熱い吐息が、こそばゆい。
こちらも全身の筋肉に、魔力を籠めることにした。いつまでも抱きつかれていては、いい加減に鬱陶しいからな。
首を絞めつけるメリッサの腕を無理やり抉じ開けて、思いっ切り、ぶん投げてやった。
「ハウタ、やったれ!」
「任せるんに!」
冷気を孕んだ魔力が、ハウタの爪に宿っている。
俺が仕込んだ術式を、ハウタは行使えるのだ。
――氷牙竜華。
氷の斬撃を受けて、メリッサは凍り付きながら弾けていた。
氷の飛沫が舞い散って、華が咲いたようである。綺麗にクリーンヒットしたはずなのに、メリッサは起き上がって笑っている。その額に浮かぶ第三魔眼が、こちらを捉えていた。
どうやら本気で、向かってくるようだ。
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