第5話《一撃離脱》
身体を捻って剣撃を躱すのと同時に、俺は回転蹴りを放っていた。
ボリスの顎に、俺のつま先がクリーンヒットしている。やられっ放しというのは、さすがに癪に障る。軽い脳震盪を起こしているので、多少はクラクラするが動けないほどではない。
ボリスが倒れるのを確認して、軽く距離を置いた。
気配を殺してはいるが、近くにメリアがいることには気づいている。すぐに出てこないところを見ると、今回は敵に回るつもりなのだろう。
エルザになにかを、吹き込まれたのだろう。
基本的にメリアは単細胞なので、簡単に操られる。何を言われたのかは知らないが、メリアは強い。本気で向かって来るのであれば、それなりに脅威となる。
「言っておきますが、ボリスくんはまだ本気ではありませんからね」
「どういう意味や?」
倒れているボリスからは、特異な魔力を感じた。
その瞬間、魔闘級が一気に跳ね上がるのが理解った。500那由他はあるな。さきほどまでの50倍だ。
起き上がるボリスの身体が、膨れ上がっていく。
「彼は獣王モーリスと、夜煌竜との間に生まれた混血児よ。なので本来のちからは、夜にこそ発揮されるわ」
周囲が突然、薄暗くなっていく。
この空間は、エルザが生み出したものだ。昼間から、夜に切り替えることは容易かった。
「やるじゃねぇか、英雄さまよぉッ!」
全身に体毛を生やして、獣身化している。
獣と竜の魔力が混ざり合って、凶暴なまでに魔力が迸っていた。人格まで、変貌ってしまっている。
「俺を本気にさせたことを、後悔させてやるよ!」
「やってみろよ?」
俺は平穏な暮らしを送りたいが、決して内気な正確ではない。
喧嘩を売られれば、それなりに買う。腹が立てば、怒りもする。目のまえに、脅威があれば排除もする。
いままさに、俺に危機が迫ってきている。
通常魔術では、追いつかないことは明白だ。大地に手をついて、術式を流し込んでやった。
標的はボリスではない。
確かに強くはなっているが、体術だけで何とかなる範疇だ。問題なのは、メリアだ。
既にメリアは、背後に居る。
――大地転翔。
俺の背後の大地がせり上がって、白刃の刃がメリアに向かって噴出する。突進をしてくるボリスに、起き上がりざまにハイキックを放り込む。
蹴り足には、魔力を流し込んでいる。まともに受けて、ボリスは吹き飛んでいた。
その間に生まれた隙をついて、メリアの放った斬撃が俺の背中を撫でつけていた。
――竜皇一刀術・幻魔斬。
斬った相手の魔力を、奪いとる技だ。
大地転翔を平然と避けるとは、大したものだ。
神魔竜グラナスの娘なだけはあるな。
振り返ると、すでにメリアの姿はない。一撃離脱とは、ずいぶんと卑怯な真似をしてくれるな。
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