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第3話《勇者のホームルーム》


「私が今日から、貴方(あなた)たちの担任になるエルザ・エスタと申します。ふつつか者ですが三年間、よろしくお願いいたします!」



 よく手入れのされたブロンドの長髪を、後ろに括った美しい女が溌剌(はつらつ)とした口調であいさつをする。

 見た目はまだ二十歳ほどにしか見えないが、エルザは今年で40半ばを迎えようとしている。まぁ、俺のオカンなのだが、年甲斐もなく教鞭(きょうべん)を取ろうと張り切っているのだ。



 勇者クラスの担任が、元勇者とかベタ過ぎるとは思うがまぁ、仕方がないか。

 息子が名門校に入学するとともに、教師として入学するとか過保護もいいところだ。はっきり言って、痛すぎる。年頃の息子にとっては、オカンなど邪魔者いがいの何者でもない。



 だからこそ、普通クラスでのんびりとした学園生活を夢見ていたのだが、本当に夢で終わってしまった。

 俺は勇者になんて、なりたくはない。



 普通のサラリーマンとして、誰からも指差されることなく平穏な暮らしを送りたいのだ。



「先生。質問が有ります!」



 エルフ族の少女が、元気に手を上げながら問いかける。

 魔闘級は、500那由他(なゆた)ほどだ。高貴な血でも引いているのか、通常のエルフ族よりも魔力の質が高位である。



 魔力にはいくつかの性質があって、その内容は種族によってことなるのだ。

 俺のように、人間と魔王のハイブリッド種は複数の魔力を持っている。それらの性質は、言葉では形容しづらい。



 例えば同じ作物を、まったく違った環境で育てると異なった味になるように、魔力を通わせる種族が違えばその本質まで変化してしまうのだ。

 話しはそれてしまったが、エルフ族の少女――ミランダは言葉を続けた。



「どうして私たちのクラスだけ、こんなに人数が少ないんでしょうか?」



 他のクラスは30~50人ほどで組まれているのだが、俺たちのいる勇者クラスは8人しかいない。

 さらにもう1クラス、別枠で設けられているようだが、そちらは5人とさらに少数クラスとなっている。



「貴方たちが、選ばれた存在だからです。この学園には、様々な種族の豪傑(ごうけつ)たちが集まってきますが、貴方たちは彼らの頂点に君臨する義務があります!」



 勇者にあるまじき発言のようにも思えたが、エルザはきっぱりと言い切っている。

 周囲の空気が心なしか、張り詰めているように思われた。



「誰よりも強くってんなら、そこにいるコモさまが一番なんじゃねぇのか?」



 魔人族の少女が、口を挟んできた。

 彼女の表情は、とても攻撃的である。めっちゃ、俺を睨んでいる。


 出来れば俺のことは、放っておいてもらいたい。



「そうですね。確かにコモは、誰よりも強いです。けれど彼には欲がないのか、それを望んでいない(ふし)が見られます。そこで、どうでしょうか。いまから皆で、コモと闘ってみませんか?」



 ――おい、オカン。



 めちゃくちゃな提案に、皆が混乱しているではないか。

 俺的には完全に、NGである。



「ふざけるなよ。いくら俺でも、さすがにそれは嫌や!」

「あら、コモ。このクラスのリーダーなら、力を示すのは当然じゃないかしら?」

「誰が、リーダーやねん。大人しく、隅っこで陰キャしとくから、他の誰かを抜擢(ばってき)してや!」



 とにかく、目立つのは嫌だ。

 オカンを含めた全員を、倒すのは簡単だがその後が、確実に面倒なのは目に見えている。オトンみたいに、色んなメディアに引っ張りダコにされるのは、御免だった。



 俺の人生の目標は、しがないサラリーマンなのだ。

 ストレスフリーの生活を、悠々自適に送らせてほしい。



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