第17話《ふたりきりで熱い時間を過ごしたいだけだ》
「ロコさま、おはようございますぅ~!」
目を醒ますと、メリアの間の抜けた声が降り注がれた。
さすがにノーガードでオリオンの一撃を受けたのは、あまりにも無謀すぎたなと反省しながら起き上がる。
「ロコさまから迎えに来てくれるなんて、メリアは嬉しいですよぉ~!」
そう言いながら、メリアは抱きついてきた。
それを手で引き離しながら、さきほどの一戦に想いを馳せた。オリオンの動きがまったくといって、見えなかったのだ。なので何をされたのかが、理解ができないでいる。ゆえに心が舞い踊っていた。
自分よりも強い相手が、こんなにもいるのだということに驚かされている。
何をもって『強い』というのかは、人によっては様々ではある。総合的な意味では、いまのところは誰よりも強いと自負している。すべてのリミッターを解除して、最強の術式を放てばこの屋敷ごと、すべての住民を皆殺しにすることは可能ではあるが、俺に取ってそれは強さではない。
『強い』というのは、相手の土俵であっても勝つことができることを言うのだ。
そういう意味では、恐らく俺はメリアよりも弱いだろう。剣術や体術だけで勝負をすれば、メリアに勝てる気がしないのだ。
「なぁ、メリア。お願いがあるんやけど、良いかな?」
「なんですか、コモさま。急に改まって、まさか愛の告白ですか……メリアはまだ、こころの準備が出来てませんですよぉ~っ!」
なにを勘違いしたのか、メリアは顔を赤らめながら焦りだした。
べつに愛の告白をする訳ではない。ほんの少しばかり、ふたりきりで熱い時間を過ごしたいだけだ。互いの情熱をぶつけ合って、青春をともに謳歌したいだけである。
「俺を、鍛えてくれないか?」
「……へ? それってぇ~……つまり。本気のメリアと、剣を交えたいってことですか~?」
メリアにしては、理解が早かった。
彼女は単細胞なので、やる気を出させるのは簡単である。
「お前にしか、頼めまれへんねん。俺のために、なんとかできへんやろうか?」
完全にダメ男がカモの女から金を引っ張るときのノリで、メリアはやる気をだしてくれるはずである。
聞こえは悪いが、メリアにしか頼る相手がいないのは間違いではない。なので、嘘は言っていない。ほんのすこしだけメリアの恋心を利用しているのは認めるが、メリアのことは嫌いではないのも事実ではある。
ガキの頃からの付き合いなんだから、純粋に仲間意識のようなものはある。
好きか嫌いかと聞かれれば、好きだと答えている。まぁ、恋愛感情かどうかで言えば、別問題ではあるがな。
なのでメリアの心を、踏みにじるつもりもない。
なので純粋に、メリアの協力を欲している結果なのだ。決して、女をポイ捨てするようなクソ野郎に成り下がるわけではないのだ。
「解りました。コモさまが、そんなに真剣な表情で仰られるのならば、メリアはお力になりますよぉ~!」
そう言って、メリアは再び抱きついてきた。
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