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時流刑ーエピローグ  作者: 箱野迷蝶
1/1

片腕衆の始まり

長編を目論んでます。


男は目を閉じゆっくりと膝をついた。


すでに村中から人が集まり半円を作って男を囲んでいた。

女子供は震えを抑えるようにお互いにしがみつき、嗚咽を洩らしている。

年寄り達の読経が小さく伝わってくる。


炭小屋を背に跪く男は長い髪を後ろで縛り、彫りの深い顔は浅黒く日焼けし、労働で作られた硬い筋肉が着物を通してもはっきりと判った。


「おい」


声をあげる村人の集団が掛け声一つで割れ

一人の侍が男に向かって歩みよった。

袴の裾をたくしあげ、髪は結っていない。

大刀は鯉口が切られ左手に握られている。


侍は膝をついた男の傍らに立ち虚空を見上げた。

「よろしいか」と低く静かに呟く。

男はその言葉に頷き静かに目を開けると

口元に不敵な笑みを浮かべ右手を肩の高さまでゆっくりと挙げ

そして拳を握り親指を突き立て息を吸った。


「皆!安心せいっ」

「直ぐもどる」


男の声が響き森に谺した。


周囲から声にならない叫び声が湧き立つと、傍らの侍がゆっくり男に視線を向ける。

そして握られていた刀を腰に刺し直し「ふうっ」と短い呼吸をして抜刀。

上段に構えた。

淀みない所作が侍の地力を物語っている。

「シャッ」

大刀の太刀筋が男の二ノ腕の中心に交差したかに見えた。

刹那。

右腕は持ち主を離れ地面に吸い込まれるように落ちていった。

膝を着いたまま男は口元の笑みを絶やさずただ正面を見ている。


すわっ。集団の中から脱兎の如く飛び出した二人。

「沙耶っ」

白装束を纏い頭巾を着けた六尺豊かな大男が目線を切らずに叫んだ。

もう一人が何も答えず後を追う。

白装束の頭巾から髪がはみ出ている。女?


「左近殿っ」


「お気を確かに」


二人は男の肩を白布できつく縛り、落ちた腕を布にくるむと侍に目配せをし炭小屋へ走り込んだ。

侍は大男に目礼をし懐紙を咥えると刀を振った。

二人の足音が遠ざかっていきやがて戸の閉まる音がした。


大男は小屋に敷いてあったムシロに左近と呼んだ男を寝かせ

樽から柄杓で酒を口に含み「ぷぅっ」と肩に吹き掛けた。

女?の持つ腕の布が赤く点滅していた。


左近は酒を吹き掛けた大男を睨み


「二階堂っ」


激痛が左近を襲っているはずだが、興奮が勝っているのだろう

「ふはははっ」

と高らかに笑い声をあげた。


「じっ自由じゃ俺は自由じゃ」


叫ぶ左近を大男が抑えつけ、手拭いを咥えさせた。

沙耶は囲炉裏にかけてあった焼鏝を手にし


「左近殿っ参ります。」


素早く屈むと焼鏝を切り口に押し付けた。

肉を焼く匂いはじううという音と共に小屋に立ち込めた。

「ふぐわぁぁ」

左近は頚を仰け反らせ見開いた目を血走らせた。

暫しの痙攣。


「ふっ」左近は声を出そうとしたが

刹那糸が切れたように脱力。気を失しなった。


気絶を確認した二人は目を合わせ、その後の作業に取りかかった


村人達の読経が壁越に響いていた。



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