6-3
「この者たちは、罪人である――」
(それはもう、ニコラエナ様がやっただろうがよ)
広場に響く領騎士の声に、無言で悪態をつきながら――
アルフは焦燥の中で、何をすることも出来ずに立ち尽くしていた。
騎警は領民の立場にありながら、組織としては領騎士の下部組織に当たる。だからアルフは領騎士の側から、絶望的な気分で領民たちと向き合っていた。
処刑場と言えば聞こえはいい。だが実際には仮設の野外劇場だ。舞台上には罪人なる者たちが十数名ほど並べられていた。銀髪の女の姿はそこにはない。いるのは領騎士に反抗した者たちだけだ。
その罪人とされた者、一人一人の後ろに騎警が並べられている。更には処刑場を取り囲むように、完全武装の領騎士数十名――これで全員のようだ――が控えている。
(処刑まで、あと少ししかない……)
罪人とされた者たちは皆、先日の暴動の主犯とされた者たちだ。その首魁とされた女はここにはいない。
彼女をおびき寄せるための処刑が、今回領民を集めたその趣旨だ。それらしく罪状を読み上げる領騎士長が、今回の処刑を計画したのは周知の事実だった。
死刑執行の号令はまだかからない。処刑をするのは騎警の役割だ。そのために与えられた剣を持て余しながら、アルフはひたすらこの拷問のような時間を耐え忍んでいた。
(こんなことが、俺のするべきことなのか……?)
手足を縛られ目の前で泣き叫ぶ男たちを見下ろしながら。アルフは、そんな事を考えていた。
昨日から、エリーに言われた言葉が耳から離れない。騎警の仕事とは本来、領民の平和と安全を守ることだ。それが領騎士に押さえつけられ、彼らの尻拭いをさせられている。
野盗の件にしてもそうだ。彼らの命令に従わざるを得ない騎警は、ただ傍観者でいるしかなかった……
(いいや、違うか……それを言い訳にして、俺たちは何とも戦ってこなかったんだ)
ニコラエナは――あるいはドギーは、ここに来るのだろうか。彼女たちならどうするだろう。自分が殺されるかもしれない状況でも、彼女たちは自分の正義を信じるのだろうか……
信じるのだとしたら、何故? 何のためにだ?
問いかける声はただ遠い。答えがあったとしても……それは自分には選べないものだと、アルフは気づいていた。
それはおそらく、誇りと呼ばれる。自分にはそんなものはない。ただ傅いて、領騎士の言うことを聞くだけしかできない。
むなしく、彼は剣の柄を握りしめた。震えているのか、鞘と剣とがかちゃかちゃと音を立てている。
怖いのか? 俺は領民を――守るべき者を殺すことが、そんなに怖いのか……?
――ざわ、と。
不意に聞こえた喧騒のどよめきに、アルフはハッとと顔を上げた。声は広場の奥から聞こえてくる――それは奇妙な光景だった。
波を裂くように、人垣が真っ二つに割れていく。
近づいてくるその動きに合わせるように、静寂が向こうから押し寄せてくる。その姿が見えるようになる頃には……誰も、口を開けない。
銀髪の女が、剣を携えてそこにいる。
誰かが、彼女の名を呼んだ。
「ニコラエナ・ファルク・クライス……!」




