チャンス
「食べ終えたなら『ごちそうさま』くらい言ったらどうなんだい?」
焚き火の反対側に座るマーシャが頬杖をつきながら問いかけてきている言葉とは裏腹に微笑みを讃えてこちらを愛でるように眺めている。
スープと焚き火の輻射熱で体が暖まったおかげか視界のボヤけが収まって先ほどまでは見る事のできなかった彼女の容姿、表情が良く見て取れた。
金髪碧眼で柔らかい顔立ちをしたショートカットの美少女
服装はくるぶしくらいまである白いロングコート足元は蹴られたら痛そうな茶色いブーツ
ただしロングコートの中は何も着ていない。
「なんだいなんだい
そんなに舐めるように僕の体を……
……なるほどそれも君の性癖か!」
マーシャの横に座るイーシャが呆れたような口調で
「マーシャやめないさい
あなたもですよ……えーと……ん?」
何かを度忘れしてまった様子で俺に何かを言いかけるが
それは出てくるはずがない
「あー自己紹介がまだだったな
俺はノクティだ
訳あって遭難していた
この度は助けてくれてありがとう感謝している
あとスープごちそうさまな
凄い美味しかったよ」
命の恩人とは言えやすやすと個人情報を語る必要もないと判断してなるべく簡潔にそう伝えると次にマーシャが口を開いた。
「ノクティかヨロシク!
遭難……なるほどそんな性癖もあるんだね」
そんな性癖があってたまるかとつっこもうとしたが間髪いれずに横のイーシャが続ける
「僕はイーシャ、こっちはマーシャあまり似てないと思いますけど僕達は兄妹なんです」
と言ったあとイーシャは手を差し出した
握手と言うことなんだろう
それに答えてこちらも手を差し出すてガッチリと握手を交わす。
その様子をしげしげとマーシャが見つめている
確かにこの二人は似ていないマーシャとは対照的にイーシャは身長も小さいし黒髪で茶色の瞳をしている。
性格もそうだ姉のマーシャは開放的と言うか天真爛漫という言葉がしっくりとくる
弟のイーシャはどこか固い見るからに真面目
「で君達二人はいや……他にも何人か居た彼等とあんな山奥で何をしていたんだ?
この辺りの住民なのか?」
それを受けてなにが可笑しいのかケタケタと笑いながら
「こんなところに住むわけないじゃないか
僕は寒いのがとても嫌いなんだ
それはだねー
ちょーっとこの先に用事があるんだよ」
「用事?」
「そう用事だ」
うんうんと頷いてはいるが用事について細かいことは話したくないようだ
俺だって話していない事もある仕方のない事だろう
「そうか
それで彼等はどこにいったんだ?
先ほどから姿が見当たらないようだが」
「彼等はこの洞窟の入り口を見張ってくれています」
今度は変わってイーシャが姉とは違ってハキハキと答える
「見張り?なんのために?」
「この地域のモンスターは地域故にとてもモンスターが強力なのです
そんな強力なモンスターに多少広さがあるとは言え洞窟の中で襲われたならひとたまりもありませんからね
まあ外は吹雪なのでモンスターもあまり活動をしていないとおもいますが……」
「そうか後でお礼を言わないといけないな」
「いえお礼なんて大丈夫ですよ
自分達のためでもありますし」
「そうか悪いな」
「ねえノクティ?
僕達は吹雪がやんだらすぐにでもここを立つつもりなんだけど
君はどうするんだい?
山を降りるにしても……」
マーシャがそう言った後
俺のひ弱な体躯を吟味するように視線を上から下へ
「……お世辞にも強そう……には見えないね
君が良ければ僕達と来るかい?
山を降りるのは大分先になってしまうけどね」
細身の女の子にそんな事を言われたら怒るやつもいるだろうが俺は違う
これはチャンス……だ
脱童貞の
「マーシャの見立て通り俺は弱い
足手まといにしかならないと思うが
そうしてもらえると助かるかな」
なんかどぎまぎしてちょっとキョドってしまったが
マーシャはあまり気にしていないようでトンと軽く胸を叩いて
「任せたまえ!
大丈夫さ
僕達はとても強いからね」
なんかどこかで聞いた事があるフレーズのような気もするが……そんな事今はどうでもいい
「宜しくお願いします」
身の安全以外にも色々な意味を込めて頭を下げた
「うむ
よきにはからえ」
こほんと一つ咳払いの音が辺りに響く
「盛り上がってるところ悪いんですが……
マーシャそろそろ見張り交代の時間ですよ」
「あーもうそんな時間か?
じゃあイーシャ行こうか
ノクティはここでゆっくりしているといいよ」
よいしょとマーシャは勢い良く立ち上がり
イーシャを引き起こすと二人ならんで入り口の方へ並んで向かっていく
「気を付けてな」
二人にはもう聞こえない距離だろうがそう背中に投げ掛けた





