断崖絶壁
眼前に広がるは断崖絶壁そそり立つ壁
道具を使わずに-使ったとしても俺の体力では-昇るのはほぼ不可能とも思えるほぼ垂直の壁
崖下のここからでは先の様子を伺い知る事はできないがその断崖絶壁の向こうには連なる山々が続き侵入者を防ぐ天然の防壁となっているらしい。
その先が俺達の目指す場所……
この先の山々、山脈を越えたその先にあるもの______
『フロストバーン跡地』である。
なんで知っているかって?
あの自称女神と別れた後一度町に戻りネイソンと合流
ある程度ぼかして話しはしたがヨキ婆さんに事情を説明して
どう向かえばよいのかアドバイスを貰ってきたのだ。
ヨキ婆さんの話によれば時間はかかるが一度この国を出て遠回りしていけば楽な道もあるとの事なのだが……
2ヶ月以上かかるという事と
現在隣国との関係も良くない事から国外に一度出るのは難しいとの判断に至り最短、最速で目的地を目指す事になったのだ。
「それにしても…高い壁だね…
本当に越えられるの…かな…?」
不安そうな面持ちで少女が手を擦り合わせながら『はあ』と手に息を吹き掛ける。
その服装は完全寒冷仕様のフードに白いモコモコの付いた黒い膝下丈まであるコートである。
足元もサンダルを脱ぎ捨てモコモコのブーツ
残念な事に生足は封印されている……
繰り返す生足は封印されている______________
「姐さんやはり遠回りしますか?
ここの山脈をこんな装備で越えるなんてちょっと無茶なような気がします!
いやもちろん別に姐さんの決定に逆らう訳じゃあありませんよ?」
鍛え上げられた体では寒さを感じないのか?いつもと同じ服装の上に薄いコートを羽織っているだけのネイソン
「あんた今さらなに言ってんの?
まさか_____怖じ気づいたのかしら?」
イメージではロシア人がかぶっているような両耳を覆う
-象の耳の形の用なと言えばわかりやすいだろうか?-
、そんな形のモコモコの帽子に羽毛をふんだんに使ったダウンジャケット姿の少女が挑発するように_____いや、挑発をした。
そう喧嘩腰になるのはやめて欲しいもんだね
この前揉めて以来なにかとこんな感じですぐに突っかかって行く
のだ。
「あぁ!?
誰がびびってるって!?
姐さんの身を心配してるだけの事じゃねえか!
やんのか!?おい!」
そう言ってネイソンが一歩踏み出すとノエルが指を一度パチンと鳴らす。
どこからかともなく飛んできたネイソンの2回り程大きい体躯の巨鳥
着地するとノエルとネイソンの前に割って入る
「…………いややっぱりやめとく
今回はこんくらいにしといてやるよ」
ささっと馬車の影に隠れた。いい気味だな!
「ヒナありがとう」
そう言いながら黒光りする立派な羽を撫でると
ヒナも気持ちよさそうに目をパチクリと瞬かせる。
「すぐにでかくなるってヨキ婆さんが言っていたけど本当に
二十日程でここまで立派に育つんだな
信じられん」
そうこの巨鳥ノエルが卵を拾って孵したあの『ヒナ』なのだ。
今回の作戦の鍵を握るキーマンでもある。
「まあね!
私が愛情込めて育てたんだから当然の事よ!」
動物なんて餌さえ与えてれば育つだろと喉まで出かけるがなんとか堪えて『ははっ』と乾いた笑いでなんとかやり過ごす。
ここでこいつの機嫌損ねたらめんどくさいからな
「……それじゃあ早速なんだが準備をしてもらっていいか?
ネムも」
「オッケー!」
「うん…ユニ…おいで…」
俺達がここで何をしようとしているか……
作戦『断崖絶壁と山脈を飛び越えろ』である。
どう飛び越えるかと言うとヒナの両足で馬車をガッチリホールド
そしてそのままFly Awayである。
無茶な作戦にも思えるかもしれないが秘策が俺達三人にはあった。
ネイソンは知らない秘策。
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あの日自称女神の小屋を後にする直前馬車に乗り込んだ俺達に自称女神はこんな事を言い出した。
「神の約定に背く事にはなってしまいますが……
少しではありますが……お願いの先払いをします!
この先役に立つであろうスキルを2つ授けましょう!」
「2つ?
俺達は3人だぞ?
なんで2つなんだ
信用してないノエルにはあげられないってか?」
「なによそれ!
信じている訳じゃないけど私だけ貰えないってのはなんか感じ悪いわよ!」
そう反論する俺達に自称女神はいたずらに微笑み
首を横に振りこう答えた。
「いえいえ
違います
神はそんな差別をしたりしませんよ?
むしろ逆です
今この場にスキルを持たないものがいますよね?
その2人……いえ2頭に」





