婚約者!?
たじろぎ少し後退りをする老婆
「やっぱりこの前のは見間違いじゃあなかったのか‥‥
ネイソン‥‥‥だね?」
やはり知り合いだったのか
そのような気はしていたが‥‥‥
「そうだ
久しぶりだな元気してたか?」
「久しぶりだな‥‥‥?
五年前急に町を飛び出して
今の今まで音沙汰も全くなく急に戻ってきたと思ったらなんて言い草だい!?
セイラの気持ち考えたことあるのかい!
あんたは!」
セイラ!?
セイラってあの?!
老婆の勢いでネイソンもタジタジ
「あーこうなると思ってたんだよ全く
ヨキ婆さんちょっと待って
落ち着いてくれ
セイラはまずいだろ人様が聞いているんだぜ」
「ちょっと待ってくれセイラを知っているのか!?」
思わず話に割り込んでしまった。
「あぁん!?セイラだあ!?
目の前で人の母ちゃんを呼び捨てにするとは太え野郎だな」
母ちゃん‥‥‥?
なんか少し話がおかしい
俺の知ってるセイラにはネイソンくらいの子供なんていそうな年頃では無かったと思うが
「おい!なんか言ったらどうだ!?」
ネイソンが俺に食って掛かってくる
良くわからないけど俺の処世術「土下座」でなんとかしようと片ひざを地面についたとき老婆が口を開く
「ちょっとあんた達
病人の前だ静かにしてちょうだい!」
「ああそうだったな
すまねえ‥‥‥」
どうやらネイソンもこの老婆にらかなわないようで借りてきた猫みたいに一瞬で大人しくなった。
「それで今更あんたがなんの用件なんだい?」
「ああ本題を忘れてた
ネム姐さんを母ちゃんに会わせてやりたくてな
家族以外面会させないって言ってるんだろ?」
「そうさ言ったよ
家族以外には会わせられないってね
あんたが来ようとその子達を通すわけにはいかない
通っていいのはあんただけさ」
「いやそうはいかないね
ネム姐さんはな‥‥‥」
「その子がどうしたんだい?」
「俺の婚約者なんだ!」
「ふぇ!?!!!?」
名指しで婚約者宣言されたネムが今まで聴いたことないほどの声量で狼狽える。
「えっ!?」
「はっ!?」
ノエルと俺も思わず驚きの声をあげる
ネイソンがこちらに振り返り不器用にも片目を瞑ろうとしている。
ウインクのつもりなのか‥‥‥?
どうやら話を合わせろって事みたいだ。
しかたねえなー
「そうだネイソンの言う通り
ネイソンとネムは婚約者だ」
「にわかには信じがたいねー
それにそれがどうしたんだい?」
唐突にそんなことを言われて信じるやつもまあいないよな
「だからネム姐さんは家族も同然なんだ
頼む会わせてやってくれよ」
そう言ってネイソンは深く頭を下げた
こいつがこんなことするなんてまるで夢を見てるみたいだ。
「はぁー」
老婆は床の木目を数えるように地面に目をやってしばらくしてからネムの方に向き直る
「あなたネムて言ったかしら?
さっきの話は本当なのかい?」
「‥‥‥」
ネムは何も答えない
ばか正直なネムには嘘はつけない‥‥‥か
しかし目は反らさない
見つめ会う二人
暫しの沈黙
先に折れたのは老婆の方だった
「‥‥‥ああもうわかったよ
見舞っていくといい
ただしあんたとバカ息子だけだ」
「良かったですね姐さん!
さあ行きましょう」
ネムが俺達の方に振り返り「いいの‥?」と小声で聞いてきたから
黙って頷いて送り出す。
「じゃあ私は馬車に戻ってるわ」
そう告げてノエルは踵を返す。
その後をなにも言わず追いかける。





