積み荷
「あら
あんた無事だったのね」
こちらから声をかける前に先に気づき声をかけてきた。
彼女の名誉の為に言っておくがなにかを意図して言った言葉ではなく
とっさに出てしまった言葉なのだろうとフォローしておく。
一見容赦ない言葉を浴びせてきた張本人は
膝に例の新人を乗せて馬車の操縦席に座りながらこちらを一瞥する。
「無事で悪かったな
この通りピンピンしてるよ」
少しふらつきながらもスクワットのような姿勢を取り健在をアピールする。
「ちっ」
今舌打ちした?
体張って君達の逃げる時間作ってあげたのに舌打ちした?
「ノエルお前今‥」
俺のセリフを上書きするようにノエルが被せるようにこう言い放った。
「してない」
それ以上何も言わせないように威圧的な視線でこちらを見つめる。
前言撤回
彼女は意図して俺に容赦ない言葉を浴びせた最低な女です。
「ノクティと‥ノエルちゃんは‥本当に仲が良いね‥」
その様子を伺っていたネムが俺の背中越しに静かに口を開く。
そのセリフは聞き捨てならない
「俺とこの女が仲がいい?
どこに目をつけていたらそんな風に見えるんだ?」
珍しく意見が一致してノエルもそれに同調してくる。
「ネム
その通りよ
私はその悪臭を放つ男と仲がいいと思ったことは一度もないわよ?」
誰のせいでこんな悪臭を撒き散らしているのか少しはその言葉反省して欲しいもんだが‥‥‥
こいつの相手をしていても疲れるだけだな
それよりも今は着替えたい。
操縦席に座るノエルに着替えを取るように頼むが両手を広げて外国人がするようなオーバーリアクションで首を左右に振ってみせる。
「ないわよ」
「はっ?なんでだよ?」
「逃げる時にね
少しでも軽い方がいいと思ったから色々なものを投げ捨ててしまったの」
「はっ?」
嘘だろ?
馬車の後ろに回り込み荷台の仲を覗きこんで驚愕。
あんなにあった食料もわずか
ネムの大量の服も少数を残してなくなっていた。
一番重そうなお金だけは全て残っていたのノエルのがめつさのなせる技か
「そういうわけでこの子お腹をすかせているの」
馬車の先頭から振り向きこちらに膝の上の生き物を指差しそう告げる
「だから?なんだ?」
「この子の食料を調達しなければならないなって事よ」
そう言われても俺にこの辺りの土地勘はない
土地勘があるであろう人物の方に目をやる
「なんだよ?」
不機嫌そうにネイソンがポリポリと頭をかきながら声をあげる
「ここから一番近い町はどこなんだ?」
首をコリコリと鳴らしながら彼は答える
「なんで俺がお前に教えなければいけないんだ?ああ?」
一瞬の沈黙
別にビビった訳じゃないのよ‥‥‥?
「お願い‥教えて‥」
ネムが気まずい沈黙を破ってくれた。
ありがとう
先ほどとは打って変わって饒舌に笑顔で話し出すネイソン
「姐さんのお願いとあっちゃあ答えない訳にはいかないですね
一番近いのはチャチルの城下町
馬車でなら半日もかからずにたどり着けるでしょう!」
なんとも調子のいいやつだ
信用ならん
「そう
なら一度また城に戻りましょう」
いつから決定権を持ったのかノエルがそんなことを言い出した。
「ノエルあのなあ
なんでお前に決められにゃならんのだ?」
「あら行きたくない?
それならそれで別にいいわよ
あなたはここでお留守番ね」
そうだった忘れていた俺に決定権はない。
こいつと言い争っても絶対に俺にとって優位になる事はないのだ。
「いや‥‥‥
やっぱり俺も同行させて貰おうかな」
「あらそう?
だったら最初からわかりましたって言えばいいのよ」
「‥‥‥わかりました
行きましょうノエルさん」
そのやり取りを見ていてなぜそう思ったのかネム
「やっぱり‥ノエルちゃんと‥ノクティ‥仲良しさんだね‥」
「「いやいやそれはない!」」
お互い顔を見合わせてすぐに顔を剃らす。
気まずさを誤魔化してこれからの予定を皆に告げる
「じゃあ一旦チャチル城に戻ろう」
ネムだけが「うん」と返事を返してくれた。
城に行く前に
一度川に寄ってもらう約束を取り付けて馬車はゆっくりと動き出す。





