妄想
気がつけばそこに立っていた。
360度どこを見回しても真っ白
深く濃い霧の中にいるようで
自分が今どこにいるのかわからない。
俺はなにをしていたんだっけ?
なにか大事な事があったような‥‥‥
頭の上にクエスチョンマークを浮かべて考え込んでいると
どこからともなく俺を呼ぶ若い女の声が聞こえてきた。
「ノクティさん
ノクティさん
少しお話がしたいんです」
見回すが人影らしきものはない
というか霧のせいで物理的に見えない
「誰だ?
それにここはどこだ?」
うふふとさえずるような笑い声
「んーそうですね今は匿名で
ノクティさんの夢の中とか?」
ではよろしいですかと前置きした後こう続ける。
「妄想は好きですか?
妄想はいいですよね自分の好きな世界を空想したり創造したり
絶対勝てないような相手にも妄想の中なら勝ててしまう」
「俺の夢?
妄想?
唐突になんだよ」
こんなはっきりとした夢なんてあるかと思い頬をつねってみる。
あれ痛くない‥‥‥?
その一部始終をどこからか見ているのかまたうふふと女は笑う。
「痛くないでしょう?
だから夢だと言ったではないですか」
向こうからは見えているのか?
「たしかに痛くないんだが納得できない
こんなに意のままに動ける夢なんて聞いたことないぞ」
「だったらこの世界も妄想とか?」
もしここが妄想の世界なのだとしたら
妄想にしてはユーモアの欠片もない世界だ
それに
「妄想にしては俺に都合が悪すぎる
あんたの姿はおろか風景すら見えないんだからな」
「では私の妄想だったらどうでしょう?」
「あんたの妄想?」
この女の妄想?
この女の妄想なのだとしたらなぜ俺の思うがままに動けるのかという事になってくるが
「仮定の話です
妄想って恥ずかしいものじゃないですか?
だから姿を見せないのかも知れない
だって私の妄想をさらしているんですよ?」
「なんだよそれ?」
たしかに妄想は恥ずかしいものだ
しかし今の俺がこの女の妄想の世界の住人だったとしたら
その住人に姿をさらす事は恥ずかしい事なのだろうか?
「おっと
そろそろお時間のようですね
私と話した事、良く考えてみて下さいね
ではまたお会いしましょう」
その言葉を最後に一点を中心にして視界が狭まっていく。
「おい待てよまだ話は終わってないだろ!」
「‥クティ‥‥ティ‥‥‥ノ‥ティ」
聞きおぼえのある声
その声は親しみすら覚える
その声の主は可憐な少女
「ノクティ‥!起きて‥!」
視界が完全にブラックアウトする。
その刹那に妄想女の最後の言葉が聞こえたような気がした。
「うまく使いこなして下さいね」
次の瞬間俺は覚醒した。





