商談
ギョッとした。
見つかってしまったのか‥‥‥
体が強張っている。
振りかえるのをためらっているとノエルが代わりに応じた。
「なんの用かしら?
ノクティと知り合い?」
「ノクティ‥?
それがその男の事なら‥知り合いと言えば知り合いだな
昨日の朝の件で謝りたい事があってな‥」
聞いたことのある声だった。あまり好きじゃない声だ。
「お前どの面下げて来やがった?」
振り返りながらそう言ってやった。
そこには坊主頭で髭づら筋肉隆々の男が立っている。
「最初に謝らせて貰う
昨日はすまなかった
あの後、なんだか気になってな‥馬を出してお前の言っていた辺りを見に行ってみたんだ‥
そしたら本当にドラゴンの死骸があってな
あれは本当にお前が倒したのか‥?
だとしたら買い取らせて貰いたい
300万でどうだ?」
男は大きな体を屈めて窮屈そうに頭を下げてきた。
お辞儀をしているのに俺よりデカイってどういう事だよ。
悪い話しではないが俺にもプライドはある。
しかし先立つ物がないというのも事実
プライドと300万チャチル天秤にかけてから俺は‥‥‥
「いえいえこちらこそすいませんでした
ドラゴンを倒したのは自分です
滅相もございません
買い取り宜しくお願いします」
平身低頭、頭をペコペコ下げ、てもみしながら言ってやった。
嘘に嘘も重ねているが気にしない。
そう俺のプライドには1円の価値もないのだ。
「なにその変わり身の早さキモッ」
何を言われたって気にしないむしろご褒美なのだ。
「そうかそれなら良かった
ただ300万は大金だ
すぐには用意できない2、3日時間を貰うぞ
ただ手付金として50万は今すぐにでも払える
それで構わないならここにサインしてくれ」
買い取り許諾証的な物なのだろうか?
男が目の前に一枚の紙を差し出してきた。
こういう説明欄は一切読まないでサインするたちなのでそのままサインしようと男から渡されたペンを手に取った。
「ノクティ!?説明読まないの!?
それはダメよ!大人の世界は汚い物なの!
私に貸しなさい!一語一句こぼさず確認してあげるわ!」
捲し立てるようなノエルの立ち振舞に驚いて許諾証を手渡す。
「おいおいお嬢ちゃん俺はそんな汚い真似はしないぜ!
でもなそれはいい心がけだ!隅々まで読むがいい!」
男はニッと口角をあげてみせた。
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15分ほどしてノエルが顔をあげた
「厳正な確認の結果問題なしよ!
サインしてよし!」
「おっおう」
ノエルから許諾証を受けとるとすぐにサインして男に手渡した。
「これで商談成立だな
じゃあ先にこいつを渡しておく!」
懐からかなりの大きさの袋を取り出して手渡してきた。
かなりずっしりしていて両手で持たないと落としてしまいそうだ。
「で、お前さん達はどこに宿をとってるんだ?
残りの金は準備できしだい届けにいくよ」
「町の入り口から一番近い宿だ」
「ああネイソンのところか了解した
じゃあ後日」
そう言うと男はくるりと身を翻す。
「ちょっと待ってくれお前の名前はなんて言うんだ?
俺はノクティだ
そんでこっちの小さいのはノエル」
「小さいは余計よ!」
「ノクティとノエルな覚えたぞ
俺はヘイルだ
じゃあな!」
ガハハハと笑いながらヘイルは上機嫌という感じで去っていった





