ピンチ1
ネムがゆっくりと蔓の梯子を降りて行く。
半ばまで降りた辺りで男が立ち上がる。
「おいあんた動いて大丈夫なのか!?」
問いかけるもその問いには答えず
ニヤリと笑うと癖のある発音で男は叫んだ。
「プラントキャプチャー!」
直後ネムが掴んでいた梯子の幾重にも重なっていた蔓がほどけネムを激しく捕縛した。
「うっ‥うー‥」
かなり苦しいのか呻き声をあげている
「おい!お前がやったのか!?
助けに来てやったのに!何しやがるんだ!」
心配なのか【白いの】も右往左往しながらぴぃぴぃ鳴いている。
男は苦しんでいるネムを見下ろして愉悦の混じった笑みを浮かべて
「クックックック
お前らみたいなお人好しのバカ野郎はまだいるんだなぁ
それにこの女は中々の上物だ100万チャチルは下らない
いやー笑いがとまらねぇぜ!」
「なんの話だ!?ネムを離せ!
お前農場のじいさんの孫じゃないのか?!」
「じいさんの孫だぁ?そんなことまだ言ってんのか?クックックック
お前らは騙されたんだよ!
俺らはなあこの辺りで旅人をだまくらかして
人身売買してるんだよ!
そうだな‥お前はたいした金になりそうもない‥
だからここで死んでもらうぜ!」
「お前‥きたねえ事しやがって
許さない‥絶対に許さない‥」
【白いの】も同じ気持ちを抱いているのか今にも崖を飛び降りそうな勢いだ
「おっと!なんかうろちょろしてると思ったらさっき取り逃がした一角獣様もご一緒とはありがたいねぇ
痛手を負わせてやったはずなのに無傷だって事はまた別の個体なのか?
まあそれはそれでいいそいつの角は高く売れるんだ
今日は素晴らしい日だ
」
ニヤリと男が笑うと【白いの】が身震いしたように感じた。
まさかこいつが傷だらけだったのもこいつが‥?
出会って数分でここまでの嫌悪感を抱いた相手は初めてだ。怒りで体が震えている。
気がついたら俺は何もなく、策もなく、案もなく
ただ崖から飛び降りていた。
着地をミスってバランスを崩して顔から突っ込む。
普段の俺だったら照れ隠しに軽口を叩くところだがこの日ばかりは違った。
立ち上がりネムと男の間に立ちはだかる。
「ネムには指一本触れさせねぇ!」
「自分からやられに来るとはいいこころがけだねえ!よっと!」
衝撃が左頬を襲う。
体が宙を舞った。
追撃に先ほどネムに肘打ちされたところに寸分たがわず振り下ろした拳が突き刺さる。
「うっ」
思わず嗚咽が漏れる
地面に叩きつけられた衝撃も相まって呼吸ができない。
あばらも何本か折れてしまったかもしれない。
目の前もチカチカする‥
もうここまでなのか‥
ネムが苦しそうにポツリと呟いたのが聞こえた
「誰も‥不幸な人は‥いなかったんだね‥
良かった‥」
‥お前こんな時まで‥
「プラントキャプチャー!」
男が再びそう叫ぶと蔓が体に巻き付き木に捕縛され
張り付けのような形にされた。
「お前のような雑魚
俺が直接手を下す必要もねえ!ぺっ」
顔に唾を吐きかけられる。
「くっ」
俺に興味を失った男はネムの方を見るや舌なめずりをしながらこう言った
「こんな上物なかなかお目にかかれねえなあ‥‥
売り物だが‥‥
ちょっとくらい味見しても‥
ばれはしねえよなあ‥」





