対中強硬論
俺は再び隼鷹の中に入り、船室にこもった
ふとデスクの上を見ると一枚の封筒が置かれていた
「部屋を出ている間に誰か置いたのか?でも差出人が書いていない…」
封筒からカードを出し、中を見てみる
そこにはこう書かれていた
「本日の夕方 8時に船室ロビーの待合席にてお待ちしております
内容は今度の対満州戦の戦略と投手ローテーションの発表 それに加えて、現在の対中情勢と対中戦についてです」
俺は読み終わるとカードを引き出しに入れた
このカードは今後の戦略に関する内容であるのでおそらく、コーチか監督が書いたのだろうということは容易に推理できる では何故無記名なのか?
それはその時になったらわかるだろう…
俺は考えるのをやめた
船は現在は佐世保を遠く離れ四国 桂浜沖を航行している これからは横須賀まで停泊せずに一気に行くのだ
俺は長い船旅になることを予期し、佐世保で買っておいた物を広げた
俺が佐世保で買ったのは朝日新聞と小説と焼酎瓶を二本だ
小説は「日独海行かば」という名の小説で 海江田誠治が書いた本だ
俺はその本でしばらく暇を紛らわすつもりだ
それらを眺めていると、表の扉がノックされた
「沢村さん、もうすぐ夕飯なので食べに行きましょうよー」
俺はそれらをしまい部屋を出て、待っていた聖沢君と共に食堂に降りた
移動中、ふと思ったのだが、決まった時間に夕飯が出て満足に食べることができる人間は日本には皇族や永田町の人間以外には我々しかいないのではないか?とも思った
俺たちが戦地にいた時は夕飯は2日に1回で量もバラバラ
時にはヤシの実だけという日もあった
今日の夕飯は海老の焼き飯である
なんという贅沢か、俺はしっかりと味わった
夕飯を食べ歯を磨き、入浴を済ませた
時刻は7時50分 そろそろだ
俺は部屋を出てロビーに行く
ロビーには1人の男が窓を向いて座っていた 彼が見ていた窓に俺の姿が反射したのか 足音が聞こえたのかはわからないが、彼がこちらに気がつき振り向いた
「待ってたよ、沢村くん」
声は少しドスのきいた声で どこか貫禄があった
「一体誰なんですか?」
俺は聞いた
男は予想していたかのように即座に返答した
「君が高校野球で甲子園に出場していた時、俺は君を甲子園の一塁スタンドから見ていたんだよ 俺は東京巨人軍の総合スカウト部長だ」
「⁉︎」
俺は驚いた まさか東京巨人軍のスカウト部長だったなんて
チームメイトのスタルヒンや川上さんも彼がスカウトしたのだ
その手腕は日本球界ではかなり有名だ
彼の名前は 徳川斉政
かの江戸幕府がまだ存続していたら第18代将軍になっていた方なのだ
俺は徳川スカウト部長と今後の日程について話し合い、メンバーも聞いた
その話の最後に、対中政情についても聞けた
「今 帝国は米英と戦争状態にあるのは知っているだろうが、実は先日 講和をしたはずの中国が再び宣戦布告をしてきた 君が派遣されていたフィリピン守備隊を対中戦線に回しているんだ 現在は松井石根指揮官が中国相手に善戦を続けている アメリカに比べれば容易に勝てる相手だ うまく行けば海南島も取れそうだと軍部は喜んでいる… しかし俺は危惧していることがあるんだ」
「何を危惧しているんですか?」
「彼らが劣勢になっている腹いせに俺たちに危害を加えてくるかもしれないんだ 彼らが中国大陸でどんな事をしているか知っているだろう?国際法違反である一般人の服装をして戦う行為をしているんだ 彼らの一般服 便衣を着ている便衣兵が厄介なんだ」
「それはいけませんね…」
「そうだろう?だから奴らとの対戦はなるべく気をつけよう、打席に立つ時はフェイスガード付きヘルメットも忘れずにな」
「わかりました、皆さんに伝えておきます」
話はそこで終わり、俺と徳川スカウト部長は自室に戻った
俺はチームメイトに伝えるべく、明日のミーティングで話す内容についてのメモを書いた
スムーズ投稿達成!