シェルターの真実
譲治は足元に散らばる書類の一つを手に取り軽く目を通した。ところどころが血の染みで汚れているが読むのに問題はなかった。譲治は数秒目を通して目を見開いた。
≪シェルター61≫
建造日 :二〇九五年
名目用途:非常用の避難シェルター。
◇実験用途◇
緊急事態で閉鎖された場合、一■月で自動的に全機能が停止するように設定。崩壊された世界で人間の反応デー■・適応力のデータ収集が目的。管理官は避難民が外に出る際、ワクチンと偽り収集用チップを投与すること。
譲治はずしんと頭が重くなるような感覚にとらわれた。目からの情報は認識していたが理解が追い付かないような感覚だった。
だからなのか。だから自分が入っていたシェルターは一月で壊れたのか。マコトのシェルターで確認した自分の体に入っていたチップは、ワクチンと言って打たれた注射に入っていたのか。そんな意味の分からない実験のために、このみは死んだのか――。
譲治はぼんやりとした頭のまま紙を眺め、また一つ拾い上げた。番号は37、マコトのシェルターだ。
≪シェルター37≫
建造日 :一九八七年
(二〇一九年、二〇三九年、二〇八五年に改築)
名目用途:公園の自然管理AI保護施設
◇実験用途◇
凍結した精子と卵子による体外受精■で人間を量産。遺伝情報に問題がないか調査。二〇三九年以後、遺伝子操作による性別の固定化の実験施設も兼ねる。
◇成果◇
遺伝子操作により女性のみを生み出すことに成功。ただし、安定■産にはこぎつけていない。遺伝操作卵が細胞分裂を始める条件が未解明。■■の■■が影響していると考えられる。
・追記1
二一〇七年の転換期をもって実験を終了。修理スタッフおよび管理官は被験体を殺処分後、本部と合流されたし。研究自体はシェルター36が引き継ぐ。
・追記2
五代目監督官である花蓮管理官が被験体の殺処分に反対、シェルターに残るとのこと。説得を試みたが、地表の汚染拡大が確認されたため断念。各スタッフは予定通り撤収。花■管理官に許可されていた機密情報へのアクセス権を剥奪。シェルター内の全端末に第二レベルの情報プロテクトを実行。
浄水器の基盤を時間差で破壊されるよう細工。シェ■ター産■れの人間が外の世■に対応できるかの実験として再利用申請後、承認済み。
マコトは殺されるはずだったのか。
譲治はすっと目を細めた。わけの分からない研究に使われ、用なしになれば殺す。あのシェルターにいた子供たちを、マコトを。あの管理官が必死に説得、抵抗してくれたのだろう。それを受け入れるように見せながら彼女たちを外の世界に放りだすつもりだったのか。
自分もまた、研究のために外に放り出された。崩壊した世界で、なんとか生きている時も、娘と話しているときも、娘を失ったときも、全て監視されていた。自分の十余年は全て研究のためだったとでもいうのか。
娘の顔を思い描いた譲治の脳裏に、マコトの顔が浮かんだ。
マコト、無事だろうか。
無事でいてくれ。
あんな純粋な子はもうこの世界には居ないかもしれない。こんな壊れた世界に飛び出し、酷い目や恐ろしい目に遭ってなお、まっすぐ道を歩もうとしている。娘が死んでからずっと、死んだ目をしていた俺だが、彼女に出会うことができた。
ああ、それだけで俺が生きてきた意味はあったのだろう、そう思いたい。俺の命などどうなってもいい。あの真っすぐ生きる子を死なせてはならない—―。
譲治は手にした紙を破り捨てると、部屋を後にした。




