表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世紀末救世主になれないおっさんは目が死んでる  作者: 海光蛸八
最終章 約束
67/73

夜獣、再び

 重い足音が少しずつ近づいてくる。

 このまま出たら見つかる。


 浄水器があった部屋に戻るか。いや、浄水器の異変を確認しに来た可能性もある。譲治はばくばくと早まる鼓動音を感じながら、視線を左右に振った。左の扉、よく見ると半端に開いたまま僅かに歪んでいるように見える。右の扉、こちらは扉の脇に端末が見えるが、ロックはマコトが解除してくれているはずだ。


 譲治は足音を立てないように気を付けながら右の扉に近づいた。ロックはきちんと解除されていたようで、金属製の扉がにせり上がった。譲治は急いで薄暗いその部屋へと入った。


 そこの部屋にも血と死体があった。

 だが、なにかがおかしい。


 今まで見てきた死体はまさに獣に引き裂かれ、血肉をまき散らした無残なものだった。だがそこに転がっていた死体はミイラのように乾き、周りには革や金属の鞄のようなものが転がっているほかは、僅かな血だまりの跡しかなかった。


 だが、今はそんなことを気にしている暇はない。譲治は隠れるところがないか辺りを見回した。埃をかぶったデスクやソファーがあったが隠れられそうもない。部屋の隅に三つ連なったロッカーを見つけ、譲治は静かに駆け寄った。

 右端を開く、多くの仕切りにいくつもの小物が乱雑に置かれていて入れそうもない。その隣、鍵がかかっている。最後の一つ、何も入っていない。譲治がその中に飛び込み、閉めたところで自動ドアが開く音がした。ロッカーの上部にはいくつかの隙間が横に入っており、そこから僅かだが外の様子が見えた。


 夜獣が入ってきた。

 その顔が非常灯の薄明りに照らされる。

 赤黒い肌に瞼を失ったかのように見開かれた目。

 人の指が丸ごと爪になったような手。

 異様な姿ではあるが、人間の面影は残っていた。

 ここの廊下で見かけた獣のような姿ではない。

 恐らく、以前廃墟で遭遇した個体だ。


 夜獣は重い足音を響かせながら進み、床に転がったミイラたちに近づいた。夜獣はミイラのそばにしゃがみこみ、姿が見えなくなった。音ではんだすると、何かを漁っているようだった。鞄か何かが開くような音の後、紙をめくるような音が続き、紙が床に散らばる音がした。一体何をしているのだろうか。譲治は音を立てないよう窮屈な姿勢のまま必死にこらえた。


 夜獣は立ち上がり、別のミイラへと向かった。また同じようにしゃがみこみ、今度は何かを引き裂くような音の後、また紙をめくり、床に放るような音が聞こえた。夜獣は再び立ち上がると、譲治が隠れるロッカーへ目を向けた。譲治はどくんと心臓を跳ねさせた。目は合っていない、筈だ。


 夜獣は重い足音を響かせロッカーに近づいてくる。右端を開いた音がした、それから中の物を掻き出すような音。その音に紛れて譲治は銃を手に取り、ゆっくりと撃鉄を引いた。夜獣の爪がロッカーをひっかく音が内部に響き、譲治はその不快な音に顔を歪めた。


 やがて探るのを終えると、夜獣は隣のロッカーに移動したようだ。夜獣の息遣いまで聞こえる。確かそこには鍵がかかっていた筈だ。譲治はゆっくりと銃口をロッカーの扉に向けた。夜獣が開いたらすぐ発砲できるようにだ。

 夜獣はしばらく開けようとしていたようだが、少しするとひっかくような音が止まった。いよいよ自分の隠れているロッカーが開けられる。譲治がそう覚悟した瞬間、耳をつんざく金属音がロッカーの中に轟いた。夜獣が無理やり扉をこじ開けた音だった。あまりの音の衝撃に譲治は銃を取り落としてしまった。ゴトンという音と共に銃が足元に転がった。


(……!)


 瞬間、音が止んだ。隠れていることがばれたのか。そう思った譲治だったが、夜獣の重い足音は譲治に近づくことなく、ロッカーから離れていった。譲治の視界に入った夜獣は小さな金属の箱のような物を持っていた。何かの保存機器だろうか。夜獣は爪を器用に使いその箱を眺め、またミイラの元へと歩み寄り何かを拾った。どうやら鞄に保存機器のようなものをしまい込んだ。

 夜獣は金属製の鞄を手に下げ、重い足音を立てて外へと向かった。譲治は見つからなかったことに安堵しかけたが、夜獣は足を止め、ロッカーを振り返った。


 譲治の全身から汗がにじむ。

 確実にこちらの存在に気が付いている。


 夜獣はそうしてしばしロッカーを注視していたが、やがて視線を外して部屋の外へと出て行った。その後、少し時間を置いて譲治はロッカーから外に出た。夜獣の足音が聞こえてから、時間にして数分しか経っていなかったが、譲治には何時間にも思える時間だった。


 だが、譲治はやり過ごしたのた。


 譲治は落とした銃を拾い上げてから額の脂汗を拭った。後はマコトと合流してシェルターに帰るだけだ。譲治は深く息を吸い込み、吐き出して呼吸を整えた。

なぜあの夜獣は自分を殺さなかったのか。初めてあったときもそうだ。あれだけの力があれば自分やマコトを簡単に殺すこともできたはずだ。なのになぜ。ふと、譲治は夜獣が何かを持ち去ったことを思い出した。


「まさか……」


 あの夜獣は、ここに入るためにマコトを利用したのだろうか。自分が開けられない代わりに自分たちに、マコトに開けさせたのだろうか。

 しかし何故そんなことをしたのだろうか。そして入ることが目的ならば、既に目的は達成しているはずだ。なぜ自分を殺さなかったのか――。

 いや、やめよう。譲治はそう考えて思考を止めた。そんなことはどうでもいい。なんにしても、浄水器の基盤は手に入ったのだ。後は変電室に居るであろうマコトと合流すれば――。


 そしてふと、足元にちらばる紙の文字が目に入った。


「シェルター61……?」


 それは、譲治が娘と一緒に避難したシェルターの名前だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ