くい
エレベーターは地下五階についた。扉が開くやいなや、大小の人骨とバリケードが二人を出迎えた。数はそれほど多くないものの、不気味なことには変わりない。骸骨を踏まないように降りて先に進むが、先に進むほどに骸骨の数は増える。
「本当に何があったんでしょう……」
「案外、俺が言ったことが当たってたりしてな」
「こ、殺し合い……?」
沈黙が二人を包む。これまで見てきた死体は全てスーツを着ていた。つまり、内部の人間同士で殺し合ったということだ。なぜ殺し合ったのだろうか。水や食料を巡っての争いか。それとも何かの派閥争いが激化したのだろうか。
「黙らないで下さいよぉ……」
「……早く基盤を探すぞ。気分が悪くなってきた」
浄水室に向かうと途中の廊下が濡れていることに気が付いた。浄化槽が割れて中の水が漏れ出しているようだ。廊下に広がる水は古いもののようで異臭が鼻をつく。
マコトの衣服は防水性に優れているので染みたりしない。だが譲治は別だ。靴と靴下を脱いでジーンズをまくって水浸しの廊下を進んでいく。ぬるりとした不快な感触が、譲治の足の裏を伝わる。
廊下は少し下り坂になっていたようで、くるぶしほどだった水位が浄水室の前まで来るとひざ下まで上昇していた。更にジーンズをまくり上げて進みなんとか浄水室に入ると、案の定水槽は破壊されており、そこから浄化されていない水があふれ出たようだ。
「浄水器は大丈夫でしょうか」
「とにかく、探してみよう」
二人は分かれて探し始めた。青い光の中、二人が歩く水音だけが静かに響き渡る。少し辺りを探ると浄水器はすぐに見つかった。機体の一部から火花が出ていたからだ。
「そんな……」
「基盤は無事かもしれないぞ」
譲治はそう言ってその可能性は低いと分かりつつ基盤が設置されている機械の裏側へ回り込んだ。譲治は何げなく、マコトが付いてきているか確認しようと振り向いた。
また人影が見えた。
一瞬だけ視界に映り、浄水器の陰へと消えた。慌てて後を追うが、譲治を追いかけて来たマコトとぶつかり、「わっ!」と小さな声を上げてマコトは尻もちをついた。
「す、すまん」
「いえ、どうかしたんですか?」
「いや……なんでもない」
気を取り直して二人は基盤がある場所へ向かった。ほどなくして、浄水器に取り付けられた赤いケースを見つけた。この中に浄水器の機能をつかさどる基板が入っているはずだが、開ける必要はなかった。赤いケースは鈍器か何かで殴られたようにへこみ、中の基盤ごと破壊されていたのだ。
犯人はすぐにわかった。壊れたケースのすぐ下に骸骨が横たわっていたからだ。手元には大型のレンチが転がっていた。襟元が赤く染められているのは血ではなく、管理官の証だろう。ここの責任者自らが破壊したということだ。
「これは駄目だな」
「み、みてみないと……」
諦めきれない様子でケースをこじ開けようとするマコトのそばで、譲治は管理官の死体を探った。胸ポケットにふくらみがあったので、中を探ってみると紙切れが入っていた。たたまれたそれを広げて読んでみると、必要に迫られて破壊したのだということが記されていた。後半は水にぬれて字がにじんでしまっているのでほとんど読めないが、「実験」や「青いライト」、「殺人鬼」という言葉は読み取れた。
なんらかの実験の失敗で有毒なガスでも発生したか、避難民に殺人鬼が紛れ込んでいた。といったところだろうか。それならば死体の数には説明が付く。前者ではバリケードの説明が付かないが、自分たちとってはどうでもいいことなので、譲治は深くは考えなかった。
何があったか知らないが、なにも機械類を破壊することもないだろうに。譲治は恨めしげに紙を丸め、投げ捨てた。いつものようにあごに手をあてどうすべきか考えていると、上着の袖をくい、とひかれた。
反射的に振り返ると、そこには少女が立っていた。
齢は五歳くらいか。黒髪にピンクのヘアピンをつけている。
マコトではない。
この子は――。
「―—このみ……?」
間違いなかった。
十数年前の姿そのままの娘が、譲治には見えた。




