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世紀末救世主になれないおっさんは目が死んでる  作者: 海光蛸八
一章 譲治とマコト
6/73

マコト

 先ほどまでの鬱屈はどこかに行ってしまったように、譲治は上機嫌に紫煙を吐き出した。あの小男の商人、いつもはガラクタしか持っていないのだが、今日に限っては品揃えがよかった。


 マッチにライター、煙草に食料(干しミミズやネコ用の缶詰だが)。殺虫剤にサビ取り剤。それなりに綺麗な毛布とタオル。蒸留水で満たされた2リットルのペットボトル。ウィスキーの小瓶。それから髭剃りもあったので、細かく生えていた髭も綺麗に剃った。あとはヤスリ砥石にリボルバーの弾が十発ほど。雑誌などもあったので全部『格安』で譲ってもらった。代わりに豚肉の半分とその牙を渡したので丸損と言うわけでもないだろう。


 譲治は品物のチェックを終えると、立ち上って奥の瓦礫に寝かせていた少女に歩み寄る。


「さて、どうしたもんか」


 譲治は煙草をくわえたまましゃがみ、寝ている少女の顔を覗き込んだ。少女の顔色は、先ほどと変わらず青白い。線の細い少女だった。シェルター暮らしが長くなると、こうなってしまうのだろうか。白のシェルター服は、外の砂と埃で少しくすんでしまっている。体にフィットするタイプのようで、よりいっそう線の細さが目立つ。腕の太さは譲治の半分ほどしかなさそうだ。胸の大きさなどは見た目の年相応といった感じだ。


「おい、大丈夫か?」

「う……」

「水でも飲むか?」

「これ……」


 差し出された手を見ると、小さな白い粒があった。どうやら薬のようだ。


「これを飲めばいいのか?」


 少女は力なくうなずいたので、譲治は錠剤を口に放り込んでやり、水も飲ませてやる。貴重な水をがぶがぶと飲み干す少女に、譲治は頬を引くつかせたが、彼女のグローブのモニターが点滅をやめた。どうやら左手のモニターは、着用者の体調不良を訴えていたようだ。


「あとはなにかあるか?」

「いえ、これで大丈夫です……」

「そうか、そりゃなによりだ」


 譲治は煙草を咥えなおし、一口吸うと、紫煙を吐き出した。その様子を少女は横目で見ていた。先ほどの具合の悪さが吹っ飛んでしまったように、その顔には好奇心に満ち溢れていた。


「それ、タバコですか……?」

「ああ」

「タバコは体に悪いらしいですよ」


 少女は上体を起こすと、細い指で譲治の口元を差した。


「長生きできないってか?」


 譲治は少女の顔に向かって、紫煙を吹きかけた。

 少女は口に手を当て、こほこほと咳き込む。


「もう平気そうだな」


 少女は屈託のない笑みを浮かべ、こくりとうなずいた。


「私、マコトって言います。本当にありがとうございました」


 少女は――マコトは再び笑顔になり、改めて礼の言葉を述べた。


 先ほど飲んだ薬はずいぶんと効きのいい薬だったようで、短めの黒い髪も、色白な肌も、今はつやつやと輝いている。まつ毛は長く、目もくりくりと大きい。唇も綺麗な薄桃色で、顔立ちも整っている。

 今はまだかわいいと言った感じだが、将来美人になりそうだ、と譲治は思った。それと共に、シェルターから出てきて日が浅いのだろうという印象を譲治は持った。こんな生気にあふれた顔をした人間は、地上にはほとんどいない。


「それで、どうしてこんなところに『穴ぐら』の女の子がいるんだ?」

「あなぐら?」

「あー……シェルターってことだ」


 マコトはぽんと手を叩いて納得してから、自分がなぜ出てきたのかを話し始めた。


「実はですね……」


 彼女の話によると、シェルターに備え付けられた浄水器が、ある日突然動かなくなってしまったらしい。そのため、修理できる人を探しに、重い扉を開けて外界へ出てきたのだが、一ヶ月ほどさ迷い歩き、行き倒れてしまった。そこをさっきの小男に拾われたようだ。


 あの小男は売れる娼館があれば、間違いなく彼女を売っていたというのに、マコトは「いい人ですね」などとのんきに笑っていた。どちらにしても、シェルターが完全に壊れたわけではないと確認できたことに譲治はひとまず安心した。


「この辺に機械の修理ができる人はいませんか?」

「それなら俺がそうだ」


 意味が分からなかったのか、マコトはぽかんと口を開けて譲治を見た。

 譲治は腰の工具を叩きながら、声を荒げた。


「だから、俺が修理できるって言ってんだよ」

「本当ですか! だったら一緒に……」

「いいぞ。ただし条件がある」

「え?」


「修理できたら、俺を穴ぐら……シェルターに住まわせろ」


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