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世紀末救世主になれないおっさんは目が死んでる  作者: 海光蛸八
六章 譲治の過去
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居るはずがない

 譲治は恥ずかしさを紛らわすために階段を下りる足を速めた。しかし、すぐに目の前に壁が現れた。立ち止まった譲治にマコトが駆け寄る。


「どうかしましたか?」

「もう五階か?」

「いえ、私の地図では四階の踊り場のはずですけど……」


 壁に埋め込まれた階数の表示も確認すると、確かに四階から五階に降りる途中であることを示していた。よく見てみると壁ではなく、シェルターのロッカーや机、ベッドなどを重ねたバリケードであることが分かった。


 譲治は半歩下がってから思い切り蹴りを入れた。があんと大きな音が静かなシェルター内に鳴り響いたが、ほんのわずかにロッカーがへこんだだけだった。相当頑丈に作られたもののようだ。譲治がロッカーを蹴った音は一時反響しただけで、すぐに静寂が戻ってきた。


「仕方ない。エレベーターを使うか」

「だったら変電室に向かいましょう。電気が付かなければエレベーターは動かせません」

「付けばいいが……」

「変電室は、確か地下二階です」


 譲治たちは階段を戻り、今度は階段を上って二階に着いた。そこには、またあちこちにバリケードが築かれていた。しかし、ここにあるのは乱雑に詰み重ねただけのものや、壊されたものが多かった。


 この階にも、シェルタースーツ姿の骸骨がいくつも地面に転がっていた。二人はバリケードのせいで迷路のようになってしまった廊下を進み、変電室へと向かった。妙にひんやりとした空気に、二人の足音と呼気が溶け込んでいく。


「なんでこんなことになってるんでしょう……」

「さあな、シェルター内で殺し合いがあったんじゃないか」

「怖いこと言わないでくださいよ……」

「お化けがでるかもな」

「や、やめてくださいって!」


 不気味な空気を少しだけ和らぐように、会話を続けながら二人は進んだ。話す話題もなくなりかけていた頃、ようやく変電室に着いた。扉の前にあったバリケードの残骸をどかすと、そのところどころに血が固まり、下にはやはり骸骨があった。何が起きたのかは分からないが、このシェルターの中で何らかの戦闘が行われたのは間違いないようだ。


 変電室の扉をくぐり、マコトは電源装置へと歩いて行った。電源レバーの前に立つと、彼女は首をかしげた。


「なんで二つあるんでしょう」

「なにがだ?」

「電源レバーです。私の所のは一つだったのに。何か意味があるんでしょうか」

「俺もこんな型は見たことないが、非常用か何かか?」


 マコトは譲治に確認の目配せをしてから片方のレバーを引いてみた。だが、明かりは着かない。もう一方も同じだった。


「駄目ですね……」

「ちょっと持ってろ」


 譲治はライトをマコトに持たせ、手元を照らすように指示した。譲治は電源レバーを一旦あげてから周りのネジを外し、金属製の上板を取り外した。配線を数分いじくるとライトを受け取り、電源レバーを下ろした。また付かない。


「やっぱり完全に壊れてるんじゃ……」

「少し待て」


 譲治がもう一方のレバーを下ろしてみると、こちらは修理できていたようで明かりが点いた。しかし、その明りはマコトたちのシェルターとは違う真っ青なライトだった。


「これでエレベーターが動けばいいんだが」

「このライトの色……なんか嫌ですね」

「見慣れない色だからだろう。とっとと基盤を探すか」


 譲治がそう言った瞬間、視界を小さな人影が横切った。譲治はとっさに懐中電灯を向けたが何もいなかった。廊下に出て辺りを見回すが、やはり誰もいない。


「マコト、生体反応はないんだよな」


 譲治はぽかんとした顔で自分を見るマコトに話しかけた。


「え、あ、はい。どうかしたんですか」

「いや……自動ドアが動くようになってるな」

「あ、そうですね」


 ごまかしながら譲治は気のせいだったかと思い直し、マコトと青く照らされた廊下を進んだ。入口付近のちょうど真下の辺りまで戻ってみると、エレベーターの上部に明かりが灯っているのが見えた。どうやら電源が戻ったらしい。


 譲治がボタンを押すと、下向きのランプが点灯した。エレベーターが上がってくる音が止まると、目の前の扉が開いた。譲治たちはそれに乗り込もうとして、足を止めた。エレベーターの内部にも、骸骨が二つ三つ転がっていたからだ。


「うわあ……」

「ホラー映画じみてきたな」


 譲治はマコトに扉が閉じないよう押さえさせ、骸骨を全て外に出した。骸骨たちはカラカラと音を立ててロビーに転がされる。


「これでいい」


 譲治は手をはたきながらエレベーターの中に入り、地下五階のボタンを押した。マコトはボタンから手を離し、扉が閉まるまで顔の前で手を合わせていた。


「なんか、早くここから出たいです」

「ああ、まったく――」


 譲治の言葉はのどで止まった。視線を向けたマコトの影に、小さな何かが見えたからだ。マコトが譲治の方を向くと人影はすっと消えた


「おい、マコト」

「なんですか?」

「今、お前の後ろに何かが……」

「やめってくださいってぇ!」


 マコトは笑いながら言うが、譲治は内心穏やかではなかった。

 今、一瞬見えた影は――。


「ホントに何かいたんですか……?」

「いや、見間違いだと思う」

「そ、そうですよ! 絶対誰もいませんよ!」


 半べそで言うマコトの言葉を、譲治は何度も頭の中で繰り返した。

 そうだ、誰も居るわけがない。


 こんなところに――居るはずがない。


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