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世紀末救世主になれないおっさんは目が死んでる  作者: 海光蛸八
六章 譲治の過去
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シェルター72


 次の日、瓦礫の山の前に二人は立っていた。


 完全に倒壊しているが、門の標識でかろうじて病院であったということが分かった。マコトのレーダーにはこの辺りにシェルターがあると表示されている。瓦礫を乗り越え進むと、奥まったところにSとTが重なったロゴの刻まれたマンホールがあった。マコトの所と同じロゴ、ST社のものだ。今度は譲治がふたを開けて中に入った。


 コンクリートで固められた回廊を進んで行くと、ここにも人骨やプラカードが散らばっていた。奇妙なことに72と書かれた青色のスーツを着た骸骨も少なくなかった。外に出て、逃げ帰ろうとしたところを殺されたのだろうか。


 さらに進むと扉が見えた。少し埃やススが付いているものの、その扉は白一色であたりの灰色のコンクリートからは完全に浮いていた。マコトがパソコンのような装置に手をかざし、シェルター内のマップデータをダウンロードしてから装置をハッキングして扉を開けた。耳障りな金属音の後に扉が開いたが、中は非常灯さえ点いておらず、真っ暗で何も見えなかった。


「どうして明かりがないんでしょう? 電源が落ちても非常灯は点いてるはずなのに」


 手の甲のモニターをタッチし、生物探知機のモードに変更しながらマコトが言う。


「非常灯がもつのは一か月までだ。それ以上の期間が空けば当然こうなる」


 つまりここは電源が落ちてから一か月以上たっているということになる。先ほどのシェルタースーツを着た死体は、電気がなくなったから外に出ようとしたが、マンホールから出る前に、何らかの理由で死んでしまったのだろう。


「生体反応は……ありません。完全に無人です」

「そうか」


 譲治は吸っていた煙草を踏み消し、腰のベルトに着けていたライトを取り外した。生体反応はないということだが、周囲に注意を向けつつシェルター72に踏み込んだ。マコトもベルトから発行する棒を取り出してついてくる。


 不気味なことに、青いシェルタースーツを着た骸骨が入り口付近に何人も転がっていた。外にあった骸骨より数が多い。中で何かあったのだろうか。


「ここの浄水装置は……地下五階。最下層ですね」


 居住区と書かれた扉の横の掲示板を照らしながらマコトはつぶやいた。


「よし、そこに向かうぞ」

「エレベーターは使えませんね。階段で行きましょう」


 二人は言葉少なに会話し、階段へと向かった。途中の廊下にはベッドやロッカーが中途半端積み上げられ、バリケードのようになっていた。暴動でも起きたのだろうか。そうであるなら、内部に死体があるのもうなずける。


 床に転がるロッカーやベッドなどが自動ドアが閉まることを妨げ、開き放しになっている部屋も多かった。停電したシェルターの扉を開けるのは骨が折れるので、探索する二人には好都合であった。


「ここから階段だ。足元気をつけろ」

「あの……」


 立ち止まったマコトは、今にも泣きだしそうな顔をしていた。


「昨日はごめんなさい。私のこと心配して言ってくれてたのに」

「いや……」


 譲治はあごに手をあて、言葉を探すように視線を左右に動かす。


「俺が悪かったんだ。あんな言い方されたら誰だって腹が立つ」

「……はい!」

「はいってお前……」


 顔を見合わせ、二人は笑った。まだぎこちなさは残るが、今はそれで十分だった。階段を下りながら、二人は少しずつ言葉を交わしていった。


「そういえばな」

「はい?」

「俺の夢だが……」

「はい!」

「……うなよ」

「は?」

「絶対に笑うなよ」

「笑いません! ……たぶん」


 譲治はため息を吐き、しばらく無言だった。

 やがてぼそりと呟いた。


「歌のお兄さん」

「はい?」

「歌のお兄さんだ」

「歌を歌う人ですか?」

「ああ、小さい子供たちの前でにっこり、笑顔でな」

「あー子供たちが見てるあの……」


 譲治が黙ったまま階段の踊り場で立ち止まっていると、マコトもぼんやりと立ったまま譲治を見つめていた。


「言わなきゃよかったよ」

「大丈夫ですよ!譲治さんならきっとなれます!」

「もういい、この話は終わりだ」

「シェルターに戻ったらなりましょうよ!」

「なに? 俺が?」

「はい!」

「馬鹿いうな! 今の俺がニコニコ笑顔で歌えってか?」

「皆きっと喜びますよ! 私も譲治さんの歌聞きたいですし!!」

「ふざけるな」

「ふざけてませんよ!」

「真面目に言ってる方が問題だ」


 いつの間にか二人の顔には笑顔が戻っていた。

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