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世紀末救世主になれないおっさんは目が死んでる  作者: 海光蛸八
五章 ジャンクタウン
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贅沢

 二人はジャンクタウンを歩いていた。あの後すぐにマザーの調子は戻ったので二人は胸をなでおろした。二度目の別れの挨拶を済ませ、今はシェルターへ向かう準備をしていた。すでに辺りは薄暗くなり始めていたが、露店が店を閉めるまでには余裕がある。


 譲治は硬貨がたんまり入った袋をリュックに入れ、マコトは大型のレーザー銃を両手に抱えて店を回る。譲治は食料品店で燻製肉や缶詰を買った。今度はネコ缶ではなく、人間用だ。その他にも弾薬や衣料品。水などを十分に買い込んだ。

 とはいえ、おおっぴらに金を見せびらかしたりはしなかった。そんなことをすれば、ここの敷地を離れたとたん、がたいのいい男たちに囲まれかねない。しかし、金が十分あれば贅沢をしたくなるのが人間の性で、譲治は上等なステーキや、炊き立てのご飯など、普段の食事の数十倍もの金を夕食につぎ込んでいた。


「じゃあ、それをふたつ」

「まいど!」


 今も果物屋の前でデザートのりんごを買ったところであった。譲治は本当ならばいくつでも買いたかったが、金持ちだと悟られないようふたつにとどめた。自分とマコトの分だ。


「よーし、じゃあ宿に向かうか」

「……」

「おい、マコト」

「へい?」


 レーザーライフルの説明書とにらめっこしていたマコトは、間抜けな返事をした。


「買い物は終わりだ。宿に戻るぞ」

「はい、わかりました!」

「そうだ、ちょっと待て」


 譲治はマコトに背中を向けさせると、雑貨屋で買った革製のホルスターを取り付けた。革紐を胸と腰のあたりで結んで固定し、背中側のホルスターにレーザーライフルを入れる。これならば腕に抱えているより負担はずっと少ない。


「どうだ。いくらか運びやすくなったろ」

「おおー、これカッコいいです!」

「そうか?」


 マコトは歓声を上げると、首をひねって背中のホルスターを見る。それから片腕でライフルを引き抜こうとするのだが、重量のせいで持ち上げられず、両手で手繰り寄せるように出すしかない。


「うーん、腰に着けるタイプの方がよかったか」

「これでいいです! カッコいいんで!」

「お前が満足ならいいけどな」


 譲治たちはあらかじめ取っておいた宿へと向かった。宿と言っても廃バスを仕切っただけのものだが。道すがら、譲治とマコトは他愛もない話をする。


「使い方はわかったか?」

「ええ、まあ……なんとなく?」

「なんで疑問系なんだ」


 譲治が笑うとマコトも笑った。

 端から見ると、二人は仲のいい親子のように見えた。


「譲治さん、基盤が見つかったらどうしたいですか」

「どうしたいって何が」

「その後のことというか……夢とかないんですか」

「夢なんてとっくの昔になくなっちまったよ」

「そうですか……なくなるまえの夢はなんだったんですか」


 マコトの言葉に譲治は僅かに眉を動かした。


「……」

「どうかしたんですか?」

「いや、なんでもない」

「譲治さんにも夢があったんですか?」

「まあな」

「えーなんですか!」

「絶対に言わん」

「どうしてですか~」


 譲治は何とか話題を逸らそうと、視線を動かし、マコトの頭に目をとめた。


「気に入ってるな」

「え?」


 譲治がヘアピン指差すと、マコトは頭に手をやった。一瞬譲治が何を言っているのか分からないといった様子だったが、すぐにぱっと表情を明るくした。


「はい! 気に入ってます!」

「そりゃよかった」


 譲治は話題が変わったことにほっとした。


「娘さんも同じものつけてたんでしたっけ」

「まったく同じじゃないが、似た色のをつけてたな」


 譲治は上着のポケットから写真を取り出すと、マコトに見せた。


「ほんとだ、同じピンクですね」

「ああ」

「この男の人が譲治さんですか」


 マコトは写真の若い男を指差して言った。譲治がうなずくとマコトは目を輝かせた。


「若いですねー!」

「そりゃ、十年以上前だしな」

「こっちが奥さんですか!」


 譲治がうなずくと、マコトは「おおー」と言って写真を眺めた。


「このみちゃんは譲治さんに似たんですね」

「そうか?」

「目の辺りとか……でも、口元は奥さんですかね」

「そうかもな」


 譲治がわずかに笑うと、マコトも微笑んだ。


「譲治さん、前から聞きたいと思ってたんですが」

「ん?」

「このみちゃんは、今どこに?」

「……」

「……譲治さん?」


 譲治は写真をしまうと、「そのうち教える」と短く言った。そしてマコトを置いて先に進む。マコトは慌てて足を速めると、その後を追った。


「あ、あの。譲治さん」

「……」

「私、また何か……」


 先を行く譲治が足を止め、振り向いた。


「マコト」

「は、はい!」

「これ持ってろ」


 譲治はマコトにリュックを差し出した。


「え、どうして?」

「少し……」


 譲治は一旦言葉を切ると、「いや、小便だ」と言いなおし、リュックをマコトに押し付けるように渡してトイレの方角に歩いていってしまった。


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