地図
「この辺の地理情報はすぐ見れる」
そう言ってタクヤは机の裏側に回りこむと、コードに繋がったプラグのようなものを取り出した。それをマザーの背中に差し込む。すると、マザーは首をかくんとうなだれさせ、動かなくなった。マコトが心配して近寄ろうとすると、大型モニターいっぱいにマザーの気だるげな顔が映し出された。
なんともシュールで間の抜けた絵づらだった。
「地理情報にアクセスしてくれ」
「了解」
「音声で検索できんのもマザーのいいところだな」
タクヤが得意げに笑うと、モニターに地図が表示された。だが、すぐに消えてしまった。
「なんだどうした」
「……お腹すいた」
「おい、今かよ」
「ごはんちょうだい」
タクヤは大げさな動作で立ち上がると、近くのキャビネットを開いた。そこからピンク色のクリームが入った瓶を取り出した。譲治たちが一緒に行動している時に採取していたものだ。タクヤはマザーが映っているモニターの下に行くと、機械のふたを開けてその瓶を差し込んだ。
「改めて聞くが何なんだそれは」
「マザーのご飯さ。これなしでもマザーは死にやしないが……機嫌が悪くなる。ま、例によってよくは知らん!」
何故か得意げにタクヤが言うと同時に、モニターにもう一度地図が表示された。広範囲に表示されたものから、徐々に拡大していく。モニターの端に映っているマザーがスピーカーを通して喋る。
「ここから徒歩でいけるのは……72、99」
それだけ言うと、モニターは元の待機画面に戻り、再びアンドロイドのマザーが動き出した。大きく伸びをしてからマザーは立ち上がり、マコトに歩み寄る「手、出して」と言われて、マコトはあわあわとしながら左手を差し出した。
マザーはその手を軽く握り、すぐに手を離した。譲治とマコトが手袋のモニター画面を覗いてみると、周辺地域の詳細な地図が映し出された。譲治は思わず感嘆の声を上げた。
「そんなことも……」
「すごいね! マザーちゃん!」
幾分か得意げな顔で胸を張るマザーは、ただの機械には見えなかった。
「この二つなら、簡単なハッキングで扉を開けられるはずだ」
「ハッキングプログラム、マコトのグローブにインストール済み」
マコトが画面をタッチして動かすと、メニュー画面にハッキングと名前がついたアイコンが表示されていた。マコトが地図に画面を戻し、現在地表示から広域表示に切り替える。ピンのようなマークが表示され、それぞれに数字がふられた。
「どっちも何日か歩けば行ける距離だな」
「でも、99。お勧めしない」
「え、どうして?」
「ここは『夜獣』の根城になってるって話をよく聞くからな」
「よじゅう?」
マコトが持ち前の質問癖で口を開くと、タクヤは真剣な表情になった。
「この辺りに生息している怪物だよ」
「肌が赤黒い。それに、俊敏性も段違い。とっても危険」
「凶暴で肉食だしな。太陽に弱いんだか、昼間は現れないって話だ」
「譲治さん、もしかして……」
マコトが視線を向けると、譲治は野盗と一緒に見たあの怪物のことを思い出した。あの廃墟で遭遇した化け物が『夜獣』なのだろうか。
「警備ロボットを護衛につけられればいいんだけどな……」
「私の指令電波の有効範囲。この壁の中で精いっぱい……」
申し訳なさそうにする二人に、譲治とマコトは首を振った。
「情報だけで十分だ」
「そうだよ。マザーちゃんありがとう」
「ついて行きたいんだが。でも色々とやることあってな」
「代わりに、お金」
マザーがくいと指を動かすと、天井からアームが伸びてきて、譲治に袋を手渡した。予想外に重量があったので、譲治は取り落してしまった。中には入っていたのは百枚近い五〇〇円硬貨で、いくつか床に散らばってしまった。
「うわ、すごい!」
「いいのか、こんなに」
譲治は硬貨を拾いながら二人に向かって言った。
「もちろん。二人は友達」
「あれ……それって俺のへそくり……」
「タクヤ、武器持ってきて」
顔を引きつらせながら言うタクヤに、マザーは命令口調で言った。
「な、なんだよ。人格を適当に入れたって言ったこと怒ってんてんのか!」
「タクヤ」
「なんだよ」
「武器、早く」
「はい」
マザーが冷ややかな口調で言うと、タクヤは早口で言って奥に引っ込んでいった。しばらくすると、いくつかの鉄の塊を抱えて戻ってきた。
「レーザーライフルだ。この間新しいの買ったから古いのを……」
「新しいほう、持って行って」
「はい、新しいほう持っていってください」
譲治は苦笑しながらマザーに差し出されたレーザーライフル受け取った。
少しいじくり、構えてみるが、譲治は渋い表情になった。
「レーザー銃か……」
「使ったことないのか?」
「いや、何度かは。だが、どうにも慣れなくてな」
譲治はふっとマコトに視線をやった。相も変わらず興味津々と行った様子でレーザーライフルを眺めている。譲治の視線に気が付き、マコトは首をかしげた。
「マコト、使えるか?」
「わ、私ですか?」
「大丈夫、説明書ある」
マコトはあまり乗り気ではない様子だったが、マザーとタクヤが好意で差し出してくれたものを無下断ることもできず、レーザーライフルを受け取った。
「構えてみろ」
譲治に言われたとおりにマコトはライフルを構える。少し危なっかしいが、なんとか扱えそうではある。やはりナイフだけより安心感はある。今度は壊さなければいいが。
「よし、じゃあ引き金を……あ、その前に安全装置を――」
譲治が言い終わる前にマコトは引き金を引いてしまった。ズビュンと言う音と共に赤いレーザーが射出された。レーザーは壁に埋め込まれたコンピュータのひとつに直撃し、表面を焦がした。
「うわあ!」
「おい、大丈夫なのか!」
「レーザープロテクトはしてるはずだけど……どうだ、マザー」
「……繧ィ繝、♯ゥ後ヰ」
「なんて言ってるかわからんぞ……」
「うわあああ! ごめんマザーちゃん!」
「繧ォЯ縺……縺溘、峙$励ェ諢」
「あー、こんくらいなら問題ない……けど、これ以上壊す前に場所だけ変えようか……」
「すまない……」




