再開、一人目
「それで、これからどうするんですか」
「ここで基盤を探すにしても、他のシェルターを探すにしても、情報を集めないとな」
そのためには中央の商会本部に行くのが得策だった。本部は旧世界の駅構内をそのまま利用したもので、商人たちの大口の取引場になっている。商人の名前と商品の出入荷・収支を安価で管理・確認してもらえるので、商人たちはその駅に集い、商会と呼んで利用しているのだ。
「よし行くぞ」
譲治たちは、露店が立ち並ぶ道を通り抜け、中心にある大きな駅舎へ向かった。駅舎――本部の入り口は旧世界で言えば電車に乗り込むホームだ。元はホームであった段差の周りには、所狭しと商人たちのリヤカーや馬車が停められており、その一つ一つに警備ロボットがついている。盗みを働こうものなら一瞬で消し炭だ。
譲治とマコトは段差を上り、構内へと続く階段へ向かう。ここでも警備ロボットに身体チェックをされてから中へと通された。階段を上りきると、一階だけがかなり幅広な構造をしており、そこに商人たちが集まっている。足を踏み入れた二人は、熱っぽい活気に包まれた。
水何リットルがいくらだ、肉が何キロでいくらだと、怒号のような声があちこちから上がっている。ここで商品を買い入れ、取り換え、様々な地域で売るのである。天井付近には大型のモニターがあり、硬貨の相場と物価が表示されている
商人の他にも、腕っぷしの強そうな男が、あちこちに座り込んでいる。ここの警備というわけではなく、用心棒の仕事を待っている者たちだった。ここに居るものは身辺調査をされ、安全で確実な仕事をする者だけだった。
「す、すごい……外もすごかったですけど、比べ物にならないくらいですね」
「離れるなよ」
マコトの手を引いて、話しかける相手を探す。商取引の間に入るわけにもいかないため、必然的に話しかけられる相手は限られる。しばらくうろうろしていると、見覚えのある顔があった。
何日か前、マコトを連れてきたスカベジャーの小男だ。商品の相場が表示される大きなスクリーンと手にした端末を、交互に睨みつけていた。
「おう、また会ったな」
「げっ、旦那……」
「げっ、とはなんだ失礼だな」
引きつった笑みを浮かべて、小さく礼をすると小男は向きを変えて逃げ出した。そうはさせまいと譲治は小男の首を掴んで引き寄せ、そのまま腕を回してしっかりと捕まえた。小男は、「ぐえっ」と潰されたカエルのような声を上げる。
「なあ、シェルターの情報とかってないか?」
「さ、さあ……そういことはあっしは知りやせん」
「じゃあここ最近で、妙な基盤が出品されてる店はないか?」
「あっしは、ほんと、何も知らないんで……」
「なんか知ってるだろう」
「知っててもタダじゃあ……」
ぐっと、譲治は腕に力を込め、小男の喉を絞める。警備ロボットが視線を向けていないうちに、あくまで自然にゆっくりと締め上げていく。大っぴらに騒いだりしなければすぐに警備が飛んでくることは無い。だが、すぐに気づかれるのは間違いないので、譲治は焦っていた。
「く、苦し……」
「だ、ダメですよ譲治さん! この人は私の命の恩人なんですから」
「え、あんた。もしかして」
「はい、あの時助けてもらった者です」
「なんだ、こんなにかわいい面してるんなら、あっしが自分でぇッ!?」
その先に続く言葉を阻止するため、譲治はさらに力を込めた。盛り上がった筋肉が小男の喉を圧迫する。
「ぐえ……」
「で、お前はなんか知ってるのか?」
「そういうことは……元締めに、聞いた方、が……」
元締め。ここの管理をしている人間をそう呼んでいた。あまり人前に顔は見せないが、この壁に集まる情報を全て把握しているという。年齢も性別もわからない謎めいた人物で、色々と噂が立っている。麗しい美女だとか、屈強な男だとか、実は何人もいるだとか、本当は自我を持ったコンピューターだとか。どれも何の信憑性もない噂話にすぎないが。
「そんないるかいないかもわからん奴をあてにしろと?」
「あ、あっしは何も知らないんだから、しょうがないじゃないですか!」
小男は嘘をついているわけではないようだ。ともかくその人物に会ってみるしかない。噂では本部の二階に居るらしいが、おいそれと会わせてもらえるのだろうか。異変を察知した警備ロボットがこちらに近づいてきたので、譲治は腕を離した。咳き込む小男に譲治は、「息切れか、運動不足は体に良くないぞ」とわざとらしく声をかけ、マコトを連れてそそくさと二階へとに向かった。
「ちょっと、今のは酷くないですか」
「そうでもないさ」
ほほを膨らませて怒るマコトを無視し、譲治は人ごみを掻き分け、二階に続く階段へと歩を進める。進んでいくごとに人の数は少なくなり、階段の周辺にはほとんど誰も居なくなった。
階段の前には半透明なドアがあり、警備ロボットが二機、その脇を固めていた。甲殻類を思わせる、頑強そうな黒光りのボディに、手にはいくつも銃口がついた重々しいレーザーガトリング。今まで敷地内で見てきたものとは明らか違うタイプだった。譲治たちを見つけると、右側のロボットが、無機質で抑揚の無い声で話しかけてきた。
「ナニカ、ゴヨウデスカ」
「あー、その。この先に行かせてもらえないか」
「キョカショウヲ、テイジシテクダサイ」
「許可証?」
「キョカショウガナケレバ、オトウシデキマセン」
「あの、許可証はどうやって……」
マコトが割り込んで話しかけると、今度は左側のロボットが機械音声で答える。
「コチラデ、ハンバイシテオリマス」
「あ、売ってるんですね!」
「いくらだ」
「ゴヒャクエンコウカ、一〇〇〇マイデス」
「……は?」
「千枚ですって譲治さん!」
「……いくぞ」
「え? 買わないんですか」
マコトの手を引き、譲治は本部から出て行った。




