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世紀末救世主になれないおっさんは目が死んでる  作者: 海光蛸八
五章 ジャンクタウン
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高架下で

 シェルターを出発して一日と少し。

 譲治とマコトは、クズ鉄やコンクリートの破片が散らばる道を進んでいた。


 二人の頭上に高速道路の高架が見えたが、柱と柱の間の道路は崩れ落ちてしまっている。残された柱の頂点にわずかな突起が見えるだけであり、道路を支える柱は今は何の意味もないオブジェと化してしまっていた。

 そんな柱の根元にはいくつもの廃車が積み重なっている。どれもこれもひしゃげ、潰れ、ただの鉄の塊になっている。なんとか原型をとどめているものも雨風にやられ、植物にまとわりつかれ、とても動きそうになかった。

 壊れた世界のありふれた景色。だが、柱のはるか上に広がる空は、多少の雲が見えるものの、雨が降り出す気配は微塵もない。世界が壊れても日差しは温かくオブジェや鉄塊や、人間たちを照らしている。


 穏やかな気候の中、譲治とマコトはジャンクタウンへ向けて、とりとめのない話をしながら進んでいく。


「譲治さんが子供のときって、どんな子だったんですか?」

「お前くらいのときは、格闘技に熱中してたな」

「カクトウギ?」

「体を鍛えて、技とか覚えて……相手を倒すんだよ」

「その相手って……やっぱり、死んじゃうんですか」


 神妙な顔で言うマコトに、譲治は小さく吹き出した。


「死なないさ、事故でもなきゃな。勝ったほうに金だの物だのがもらえるだけだ」

「それはいいですね!」

「ああ、いい時代だった」


 譲治はそう言うと廃車のひとつにのぼり、マコトに手を差し出した。お礼の言葉ともに差し出された手を掴み、譲治は引き上げた。廃車の上から目的地であるジャンクタウンの方角を眺めてみるが、見えるのは瓦礫ばかり。二人は崩落した高速道路の瓦礫と車、その二つに交互にとび移りながら進んでいく。


「今の時代になって考えてみると、俺の格闘技なんてくだらんお遊びかもな」

「私はカクトウギのほうがいいと思うんですけど……」

「まあ、そうだな」

「私にもできますかね」

「格闘技をか」

「はい、教えてください!」

「そのうちな」


 先だって進んでいた譲治は最後の瓦礫から飛び降り、マコトに「気をつけろ」と声をかける。後に続くマコトも危なげなく瓦礫から降りて、再び亀裂の入り放題のコンクリートの道路を二人で進んでいく。


「そういえば、ジャンクタウンってどんなとこなんですか?」

「もとは電車をしまっとく車庫だった場所にできた『壁』だな」

「じゃあ、私が譲治さんに始めて会った時に見たところみたいな感じですか?」

「あんなとこより立派な防護壁があるとこだ。中には自由に出入りできるけどな」

「何でですか?」

「地域の商業を活発化させるためだったかな。まあ、そのぶん警備が厳しいけどな」


 ジャンクタウンには譲治も何度か足を運んだことはあった。記憶が正しければ人型の警備ロボットが数十メートルごとに配置されていた。一度騒ぎを起こせば瞬時に取り押さえられる。

 それだけの数の警備ロボットを、一日では周りきれないほどの広さの壁の中に設置、維持しているのだからかなりの財力と機材を持った人間が取り仕切っているのだ。という噂話は絶えなかった。


「そこに基盤の情報はあるんでしょうか」

「さあな……そうだ。お前はなにか武器は持ってるのか」

「いえ、このスーツにはついてないですね」

「レーザー銃はどうした。あの管理官が持ってたろ」

「あー……」

「なんだ」


 マコトは目を逸らしながら呟く。


「使い方が分からなくてですね、銃持ったのも初めてでして……あと、どういう構造になってるのかなーって気になって。それであの、ちょっとだけ中を見てみたら、なんというか……」

「……壊したのか」


 マコトは譲治のほうを見ないままうなずいた。


「まったく……」


 譲治は背負っていたリュックを体の前に回し、中を探って小ぶりなアーミーナイフを取り出した。譲治はリュックを背負い直し、まだ目を逸らしているマコトにそれを差し出す。


「何があるか分からん、お前もナイフくらい使えるだろ」

「あ、ありがとうございます。譲治さんは?」

「俺のはあるから心配するな」


 譲治は腰にある銃を叩き、それから大型のナイフを鞘から取り出して見せた。


「ナイフなんて持つの初めてです」

「使い方を教えてやる」


 譲治はアーミーナイフを一旦返してもらうと、刃を取り出してみせた。ストレートタイプのブレードと、獲物を解体するためブレードの形状が内側に湾曲したものの二種類の刃があるものだった。そのほかにも缶切りや小さなノコギリ状の刃もあった。


 マコトに渡し、同じように刃を出させる。


「こんな感じですか」

「そう、それでいい」


 気休め程度の武器ではあるが、丸腰よりはマシであろう。


「じゃあ、借りますね」

「やるよ」

「え?」

「お前にやる。俺にはでかいのがあるしな」

「本当ですか!」


 譲治がうなずくと、マコトは嬉しそうにナイフの刃を眺めた。


 このアーミーナイフは娘からのプレゼントであり、譲治にとって写真の次に大事なものだ。そのナイフを渡したのは丸腰のマコトを心配してのこともあったが、なんとなくマコトに持っていてほしい。譲治は無意識にそう思っていた。


「そろそろメシにするか」

「あ、シェルターから持ってきたご飯がありますよ!」

「……あれか」


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