寝られない
マコトは譲治からの通信を切ると、廊下を足早に進んでいた。彼女の頬は羞恥で赤く染まっていた。通信中隠せていただろうかと不安になったが、確認することもできない。
なぜあんなことを言ってしまったのだろう。譲治の部屋を出てからそればかり考えてしまう。自分は譲治に父親というものになって欲しいのだろうか。
そもそも父親というものがどういう物かすら分かってもいないのに? ではあの子たちの言うように王子様になってほしいのか。結ばれて幸せに暮らしました、そんなことを譲治に求めているのか?
「……うーん」
マコトにはどちらもピンとこなかった。
父親、というのものへの憧れのようなものはあるが、それは未知なるものへの好奇心である。なので、強く心を惹かれたり自分が手に入れられないことに嘆いたりするたぐいのものではない。
では王子様か? 絵本に出てくるような王子様と譲治の見た目が似ても似つかないことはさておいて、そういったものへの憧れは無いと言ったらうそになる。だがそれを譲治に求めるかと言われば首をひねらざるを得ない。
「……ううーん」
首をかしげ、うーんと唸る。そんなことをしながら廊下を歩いていると、頭上のスピーカーから子供たちへ就寝時間を知らせる放送が流れ始めた。子供たちをm寝かしつけるのはマコトの役目だ。慌てて子供たちの部屋に向かったが、皆既にベッドに横たわり、既に寝息を立てている子供も居た。
マコトはまだ寝付けない子供をあやし、しっかりと寝かしつけると自身の部屋へと向かった。先ほどまで考えていた譲治への感情は、子供たちを寝かしつけている間になんとなくぼやけ、しっかりと考える気力がわかなくなってしまった。
マコトはもやもやとしか感情を抱えたままシャワーを浴び、ベッドに飛び込んだ。しばらくゴロゴロと寝返りを打って、薄暗い天井を見上げてため息とともにぽつりとつぶやいた。
「こんなんじゃ寝られないよ……」
数分後、マコトはよだれをたらしながらぐっすりと眠っていた。




