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世紀末救世主になれないおっさんは目が死んでる  作者: 海光蛸八
四章 シェルターへ
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基盤


「五十年以上前からほとんど扉は開かれていなかったのですが、非常事態だったので」

「五十年前ね、シェルターの技術革新は世界がぶっ壊れちまう直前の十数年間じゃなかったか? ……今にして思えばいきなりシェルターの技術向上が活発になったのは世界がこうなるって知ってたからかもな」


 譲治は浄水器に向かい、管理官は少し離れた場所でその様子を見守っている。


「はじめに基礎となるプロトタイプを作って、定期的に改装していたようです」

「なるほどな。しかし、なんでわざわざあいつを外に出したんだ」

「あいつと言いますと」

「マコトだよ」


 譲治がドライバーを工具箱から出しながら言うと、管理官は「ああ」と声を漏らした。


「多機能型スーツを着こなせるのはマコトだけでしたので」

「だからって一人で出すかね」

「マコトが立候補したんです。はじめは反対したんですが、言い出したら聞かない子で」

「確かにな……」


 譲治は浄水器のネジを取り外しながら呟いた。修理作業中も譲治は背後に警戒していた。修理が終わっていない間は襲われることはないと思っていたが、かといって無防備にはしていなかった。管理官と会話をしているのも、背後にいる管理官の位置を声で確認するためだ。


「一番気になってることなんだがな」

「なんでしょう」

「どうしてここには女しかしないんだ?」


 譲治が言うと、管理官の顔にすっと影が降りた。


「……気になりますか」

「まあな」


 管理官はしばらくためらっていたが、深く息を吐き出すと語り出した。


「このシェルター37では、不定期に『ベビールーム』という部屋に赤ん坊が『出現』するのです。ですから、男性の方は必要ないのです。なので、男性の方はここに……あ、申し訳ありません。譲治様を悪く言ったわけでは……」

「気にしないで続けてくれ」

「なぜ女の子しか生まれないのかは……分かっていません」

「子供ができるなら父親はどこにいるんだ?」

「それは……分かりません」

「それはちょっとしたホラーだな」


 譲治が皮肉めいた口調で言うと、管理官は困ったように眉を寄せた。


「なにぶん、分からないことだらけでして……出現する数も時期もバラバラなんです。マコトの時は一人。その次の子はマコトが10歳になった時に『出現』しました、それも二十人以上も」


 譲治はなにか狂気じみたものを感じたがあの無邪気な子供たちを見た後では、些末なことに思えてきた。どうやって子供が生まれようが自分の生活にはなんの支障もない。とにかく頑丈な壁と、水と食料さえあれば何の問題もないのだ。


「修理の方はどうですか?」

「機械自体も浄水層も問題なしだ。ただ……」

「ただ?」


 譲治は赤い取っ手のカバーを開け、婦人に中の様子を見せた。譲治の手のひらほどの大きさの基盤が砕けていた。基盤だけでなくその周辺の部分も破損している。

その基盤は浄水器の脳ともいえる重要な部品だった。破損というより破壊されていた、という方が正しいような壊れ方だった。まるでなにかで爆破したように見える。


「この辺りが壊れてるんじゃどうしようもないぞ」

「まあ、そうなのですか」


 婦人が壊れた基盤を覗き込みながら、不安そうに声を漏らす。


「こんなになってたのに、気が付かなかったのか?」

「修理スタッフがいたのですが……その、いなくなってしまいまして」

「死んだのか」

「はい、そのようなものです」


 何か引っかかる物言いだったが、譲治にそんな些細なことを気にしている余裕はなかった。基盤がとても修理できない状態だという大きな問題が発生しているからだ。譲治はため息をつくと、壊れた基盤を取り出して眺めた。


「かなり大きな衝撃を加えられたんだな、これは」

「修理は可能でしょうか」

「やるだけやってみよう」


 譲治は基盤周辺の修理を始めた。廃材から代わりの部品をつくり、配線をごまかし、わずかな埃や機器のズレまで直してみる。周辺の部品は何とかなりそうだったが、やはり精密な作りの基盤はどうやっても直せそうになかった。現に何度スイッチを入れても、浄水器は作動しない。


「やっぱり、取り換えないと動かないな」

「どうすれば……」

「新品なんて今はどこにもないだろう。どこかの廃シェルターから拝借するしか……」


 譲治が言うと、沈黙がその場を包んだ。近くに壊れたシェルターがなければ、近々このシェルターは使い物にならなくなってしまうということだ。もし近くにあったとしても、そこのチップが壊れていたら意味がない。修理できる見込みがなくなったと言うことに等しい。


 譲治があごに手を当て無精ひげをなでていると、エレベーターが下りてくる音がした。二人がそちらを向くと、マコトが下りてきた。


「マコト、どうかしたのですか」

「いえ、ちょっと居づらくなったというか……」


 婦人の言葉に苦笑いで返すマコトだったが、その場の空気を感じ取り表情を改めた。


「どうしたんですか?」

「ここにある基盤を取り換えないといけないそうです」

「この基盤はそんじょそこらで手に入るものでもない」

「えっと……つまり?」

「今の時点で、浄水器を直す方法はないってことだ」

「そんな……」

「また外に出ないとダメだな」


 譲治は皮肉っぽい笑みを浮かべた。せっかく安住の地を見つけたと思ったのに、また危険な外界へ出なければならないのか、という気持ちが表れていた。


「出たとしても、何かあてはあるのですか?」

「まずはシェルターの情報がないとな……情報といえばあそこか」

「心当たりが?」

「ここから西の方に行くと『壁』同士の交易の中継地になっているところがある。あそこなら情報があるかも……」

「じゃあ、早速行きましょう!」

「待ちなさい」


 再び婦人が、マコトを呼び止める。


「お二人とも疲れてるいるのではないですか? 今日はここで休んでいってください」

「時間がないんだろ」

「あとひと月は不自由なく暮らせるほどの浄水剤はありますので、お気になさらず」


 婦人の言葉に嘘はないようだった。まだ日が暮れるまでには時間はあるが、安全な寝床で寝れるに越したことはない。


「だったら、お言葉に甘えるかな」

「泊まっていくんですか?」


 譲治がうなずくと、マコトは譲治の手を握り、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「こっちです!」

「おいおい引っ張るな」


 マコトは譲治の手を引き、エレベーターの中に連れ込んだ。カレンはその様子を笑顔で見送り、エレベータの階数表示が居住区まで行くのを確認すると、大きく息を吐いた。

 カレンはエレベーター脇のデスクに足早に向かうと、そこの端末を起動した。端末のウィンドウに映る彼女の顔には先ほどまでの笑みは微塵も残されていなかった。起動した端末を操作し、『管理官用フォルダ』とタイトルのついたアイコンをタップするが、『アクセス権限がありません』と赤字で表示されるのみだった。


「やってくれるわね、あの糞野郎共……」


 カレンは吐き捨てるように言うと、デスクを殴りつけた。


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