別れ
「へ~じゃあ例の化け物に会ったのか」
「ああ」
「よく無事だったなあ」
譲治の心配をよそに、タクヤは先ほどと変わらぬ様子で譲治に話しかけていた。へらへらと笑いながら運転を続ける様子からは敵意や危険な気配は感じ取れなった。やはりこちらに危害を加える気はないようだ。
「友達ができてよかった」
「……なに?」
タクヤは後部座席で相変わらず質疑応答を続けているマコトとマザーをみた。
「マザーにさ、友達ができてよかったって言ったんだ」
「友達、ね」
「あんたもそう思うだろ?」
「俺は何も、シェルターに入れるならそれでいい」
そう答えると、タクヤはニヤけた顔で譲治を見た。
「なんだ」
「俺にはそうは見えないけどねえ」
「どういう意味だ」
「あんたがマコトちゃんを見る目、相当入れ込んでるって感じだぜ」
「……それは、あいつに何かあったら俺がシェルターに入れなくなるしな」
「ほんとにそれだけかねえ」
「何が言いたい」
「いやあ、別に」
譲治は、ニヤつくタクヤに聞こえるように大きく舌打ちすると、窓の外へ視線を戻した。
自分がマコトに特別な感情を抱いているとでも言うのか。馬鹿馬鹿しい。マコトはシェルターに入るための手段。それだけだ……それだけのはずだ。なのに、なぜ娘の顔がちらつくのだろうか。やめよう。もうすぐシェルターに到着する。そうすれば安全な生活が手に入る。
譲治は大きく息を吐くと、脇に置いてあったリュックを引き寄せ後部座席のマコトに声をかけた。
「そろそろ着くんだろ」
「あっ、そうですね」
マコトが手のモニターを確認しながら言うと、タクヤは車を停めた。譲治は助手席から、マコトはマザーと一緒に後部座席のドアから降りると、運転席の方へ向かった。
「ありがとう、助かった」
「ありがとうございました!」
「じゃあ、ここでお別れだな」
「ああ、道中気をつけろよ」
譲治の言葉に、運転席のタクヤは笑って見せた。
「心配ない、マザーはすげえ強えからな」
「私、強い」
「あ、あの!」
マコトはタクヤとマザーの手を取った。
「もしよろしければ、一緒にシェルターに入りませんか!」
「おいお前何を……」
「だ、だって外はこんなに危険なんですよ。二人に何かあったら……」
マコトはすっかりこの二人を気に入ってしまったらしい。だが、譲治は先ほどの不気味な行動からこの二人を警戒していた。明確に危険と判断できたわけではないが、安全だとも言い切れなかった。
だが、譲治が何か言いだす前に二人は同時に首を振った。
「ああ、俺たちは帰らないとな」
「帰って、仕事ある」
マコトの横にいたマザーも口を開く。
「それに俺はロボ専門のメカニックだしな。入ったって大して役に立てねえよ」
「そんなことないですよ。管理官だってきっと……」
「ごめんマコト。帰らないと、みんな困る」
「うー……」
「わがまま言うな、仕方ないだろ」
マコトは少しの間うなっていたが、やがて諦めたようにうなずいた。
譲治とマコトは、タクヤとマザー、それぞれと握手を交わす。
「楽しかったぜ」
「ああ、こちらこそ」
「さよなら、マコト」
「バイバイ、マザーちゃん」
マコトはなかなか手を離そうとしなかったが、譲治が肩に手を置くと名残惜しそうに手を離した。それから、西へと進んでいく車に向かって、見えなくなるまで手を振っていた。
「また、会えますよね」
「きっと会える」
マコトは目にたまった涙を軽くふき取ると、表情を改めた。
「さ、譲治さん! シェルターはこっちです!」
マコトはひときわ大きな声を出すと、譲治の先に立って歩き始めた。
譲治は車が見えなくなるまで見張っていた。




