注射器と瓶
「どかすんだろ手伝うぞ」
「あー、それもあるがな……」
タクヤは銃を手にして死体のそばにしゃがみこんだ。よく見ればその銃には針のような突起が付いている。タクヤはその銃に瓶のようなものをとりつけると、その針を死体の目のあたりに突き刺した。それを見ていた譲治の顔が不快感で歪む。
「おい、なにしてる」
「さあ、俺もなんだかわかんねえんだがよ」
へらへらと笑いながらタクヤが引き金を引くと、瓶にピンクのかかったクリーム色の液体が充填されていく。瓶がいっぱいになったところでタクヤは死体の腕を掴んだ、譲治もとりあえず足を掴み、道路から外れたところに移動させた。
「よし、サンキュー」
タクヤは屈託のない笑みを浮かべてお礼を言うと、足元の死体に向かって音立てて手を合わせた。
「成仏してくださいよ~」
「さっきのは何だ」
「言ったろ俺もよく知らない。ただ、マザーには必要なもんなんだ」
タクヤは注射器のような銃からクリーム色の液体で満たされた瓶を抜き取ると、悪びれもせずに笑った。譲治が黙っているとタクヤは鼻歌交じりにオフロード車の後ろに回り、バックドアを開けた。少し遅れて譲治が付いていくと、タクヤは大きなプラスチック製のハードケースを開けていた。空気な抜けるような音の後、中には緩衝材に包まれたいくつものビンが見えた。
「俺はこれを集めるために商人の真似事してんだよ」
「……」
「安心してくれ、死体からしか集めてえねえし、これで十分すぎるくらいの量だ」
確かに大型のハードケースがいくつもスペアタイヤなどと一緒に荷台に積まれていた。
「……そうかい」
「大丈夫だっての!」
またへらへら笑いながらタクヤはケースを戻し、運転席へと戻っていった。害があるようには思えなかったが、不気味な事には変わりない。安全のためここで分かれるかとも思ったが、シェルターまではまだ距離がある。食料も水もない今の状態で歩くのは得策とは言えない。
「譲治さんどうしたんですかー?」
マコトの言葉に譲治は一旦考えるのをやめた。殺すつもりなら昨日会った時のほうが楽にできたろう。
……あの一家のように『特別な事情』がない限りは、だが。
とりあえずタクヤの言葉を信じて一緒に車で移動した方がいいだろうと判断した。ただ、拳銃のホルスターの留め具は外したままにして、車に乗り込んだ。譲治が乗り込むと同時に車は発進した。




