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世紀末救世主になれないおっさんは目が死んでる  作者: 海光蛸八
三章 パイはいかが?
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体調

 遅めの朝食を食べ終わると、食休みもそこそこに二人は再び歩き始めた。辺りは僅かに建物が残っているが人の気配は無い。たまに廃屋の中に入って机の引き出しやクローゼットを覗いてみるが、大した物は見つからなかった。


 聞きたいことは全部聞いてしまったのかマコトの質問も収まり、今はおとなしく譲治の後ろについてきている。譲治は軽く伸びをして、背後のマコトに話しかける。


「ここからシェルターまで、あとどのくらいだ?」

「あと……二、三日でつくと……」

「よし、だったら……おいどうした」


 マコトの顔は真っ赤だった。息も荒く肌も上気している。彼女の手の甲のモニターを見てみると、初めて会ったときのように赤く点滅していた。


「なにか薬とかないのか」

「あると、思います」


 ベルトを開け、マコトは錠剤を取り出した。水筒を渡して飲ませる。


「これで大丈夫……で……」


 言葉とは裏腹にマコトはふらりと体制を崩した。譲治はとっさにマコトを受け止めた。譲治の腕の中でマコトは荒く息を吐いている。額に手をやると先ほどよりも熱くなっている。


 命の危険とまでは行かないように見えたが、このまま放って置いたらどうなるか分からない。あごに手をあてどうしたものかと譲治が考えていると、左手のモニターに赤い文字が表示された。


『精神的疲労による体調不良。投薬済み。消化に良い物を摂取し、安静にしてください』

「安静にしろったって……」


 譲治はとにかくマコトをどこかに寝かせようと近くの廃墟に入った。ベッドなどはすでに持ち出された後のようだったので、毛布を二枚床に敷いて寝かせる。マコトは苦しそうに眉を寄せ、時折小さなうめき声を出す。


 何か栄養のあるものはないかとリュックの中を漁るが、カエルやミミズの干物くらいしかなかった。栄養はともかく消化にいいとは思えない。


 譲治は倒壊していない建物の中に何かあるのではないかと考え、壊れた家具で最低限のバリケードだけ作ると、マコトをそのままにして食料を探しに出た。危険がないかマコトの手袋のレーダーを確認したかったが、画面の切り替え方が分からず見ることはできなかった。マコトを一人にするのは不安だが、連れて歩くわけにもいかない。


 すぐ隣にあった赤い屋根の洋風造りの家に入る。誰もいないことを確認してから、冷蔵庫や戸棚、クローゼットなどを開けてみたが、埃やクモの巣ばかりで何もなかった。外に出て向かいの瓦屋根の家に入るが、一件目と同じく何もない。仕方なく外に出てあたりを見回すと、数十メートル先にこぎれいな一軒家があった。このあたりにある家はそれが最後だった。


 譲治はその家に向かう途中にも、瓦礫をひっくり返したりポストや木箱など色々と覗いてみたりしたが、収穫は赤いポストの中に水の入ったペットボトルを見つけたくらいだった。マコトにもらった浄水剤をペットボトルに入れ、少し間を空けてから半分ほど飲んだ。

 

 ほとんど収穫がないまま、小奇麗な三件目のドアに手をかけた時だった。中から話し声が聞こえた。それもかなり楽しげな話し声だった。野盗が略奪の分け前の話し合いでもしているのだろうか。譲治は銃を腰から引き抜き、深呼吸してから慎重にドアを開けた。


 すると、意外な光景が広がっていた。家族が三人、仲睦まじく食卓を囲んでいたのだ。旧世界の家族よろしくテーブルを囲み、綺麗な服を着て、笑顔で食事を取っている。まるでこの一角だけ切り取られ、時間が止まってしまったかのような光景だった。


 譲治があっけにとられていると、食卓を囲んでいた男が譲治に気が付いた。すると、男はカッと目を見開いて立ち上がり、早足で譲治へ向かって来た。譲治は我に帰って銃を構え、引き金に指をかける。


「おい! それ以上近づくと……!」

「その靴! 綺麗にしないと!」


 男は跪くと真っ白なハンカチを取り出し、譲治の靴を磨き始めた。

 譲治は訳が分からず、男に向けた銃口が上下に揺れる。


「せっかくのカーペットが汚れてしまう!」

「なにを……」

「さあ、これでいいですよ!」


 男は銃を構える譲治に満面の笑みを向けた。


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