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世紀末救世主になれないおっさんは目が死んでる  作者: 海光蛸八
三章 パイはいかが?
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質問、質問、質問


 譲治達は朝もやの中瓦礫を飛び越え乗り越え、シェルターに向けて歩いていた。周りの景色といえば、相変わらず瓦礫の山と、その隙間から無遠慮に成長する植物ばかり。


 数分前、水を汲もうと立ち寄った川の表面には、どこから漏れ出したであろう化学薬品が膜を張っていた。朝日に照らされ、灰色とも紫とも取れない色合いでてらてらと輝いていた。当然、そんな所からは汲むことはできなかった。


 いつもの荒廃しきった世界の風景だ。

 何も変った事などなかった。

 ただひとつだけ変わったのは――。


「あの、また質問していいですか」

「別に挙手しろとは言ってないだろ」

「あ、ごめんなさい」


 マコトはぴしっと上げた手をおずおずと下ろした。野盗に襲われた夜、譲治はつい「質問くらいしてもいい」などと口走ってしまった。そのせいで朝からずっと質問攻めだった。道すがら拾った旧世界のチラシの束や雑誌を見ながらのマコトの質問は続く。


「で、なんだ」

「あの、ハンバーガーってどんな味なんですか」

「パンに肉とか野菜とか挟んで一緒に食べたような味だ」

「ブロック食の『パン味』と『ミート味』と『ベジタブル味』を合わせた感じですか?」

「なんだブロック食って」

「前話しませんでしたっけ、シェルターの食事はオートミールズって機械で作ってて、それの……」

「そんなこと言ってたな」

「で、そんな感じなんですかねハンバーガーは!」

「あー、もうそれでいい」

「美味しそうだなあ」


 マコトはよだれをふきふき質問を続ける。


「あ、じゃあマグロのスシってどんな味ですか」

「……マグロの味を口で説明するのか?」


 何時間もこの調子なので譲治はすっかり参ってしまった。

 だが、好奇心で輝く目を見ると、譲治はどうも適当にあしらえなかった。


「マグロの寿司はあれだ……魚と酢と飯の味だ」

「魚とご飯は分かりますけど、スってなんですか?」

「……酸っぱい液体」


 譲治は吐き捨てるように言うと、右手で後頭部をがしがしと掻いた。


「そのチラシのこと聞くのやめてくれないか」

「わかりました。じゃあ……」


 マコトは脇に挟んでいた雑誌を取り出し、ページをめくり始める。やっと質問が終わったと思っていた譲治は期待を裏切られ、情けなく眉を寄せた。


「あのですね」

「なんだ」

「えっと……『ゆるふわ天然女子の愛されコーデ』ってなんですか?」

「……あ?」

「ゆるふわ天然女子の愛されコーデ」

「……は?」


 疑問符を浮かべて思考を停止していた譲治の目の前に、草むらが見えた。話を打ち切るちょうどいい口実だと思い、譲治はマコトに向き直った。


「ちょっと頼みごとがあるんだが」

「はい! 何でも言ってください!」


 譲治はリュックからきれいな布を二枚取り出すとマコトの足にそれぞれ縛りつけた。それからマコトのレーダーを見て、それから目視でも辺りを確認し、危険が無いことを確認した。


「何すればいいんですか」

「草むらがあるだろ、そこを歩いて朝露を集めてきてくれ」

「あさつゆ?」

「草に着いた水だ。そろそろ水がなくなるから補給しよう」

「分かりました!」


 嬉々として草むらに足を踏み入れるマコトを見送り、木製のベンチに腰掛ける。塗装がはがれ、釘がむき出しになった部分に触れないよう気を付けた、


 まだ時間も早いせいか、少々寒い。

 譲治は大きなくしゃみをひとつした。



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