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世紀末救世主になれないおっさんは目が死んでる  作者: 海光蛸八
二章 凍てつく視線
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鉄パイプ


「よし、乾いたな」


 焚き火にかざしていた上着とシャツは着れる程度に乾いた。それを羽織り、譲治は胸ポケットから写真と煙草を取り出した。写真はラミネート加工されていたので無事だったが、数本残っていた煙草はすっかり湿っていた。譲治は舌打ちして湿った煙草をリュックに放り込むと、残りの荷物も乾かそうとリュックを引き寄せた。


 その時になってまだマコトが帰ってきていないことに気が付いた。


 さすがに遅い。リュックの中身を確認しながら譲治は思った。服も乾いてしまうほど時間がたったというのにまだ戻ってこない。外の雨脚は勢いを増し、雷の音も聞こえ始めた。


 譲治はあごに手をあて無精ひげを撫でた。悲鳴や激しい物音は聞こえなかったので、何かあったわけではないと思えるが、譲治は心配していた。マコトの身を案じているのではなく、自分がシェルターに入るための切符をなくす事への心配ではあったが。


 譲治はとりあえずリュックの中身を無事なものとぬ塗れたものに仕分け、ライトをベルトから取り外して明かりを点けた。腰に銃があることも確認し、譲治はマコトが去って行った方向へ歩き始める。


「おーい、どこにいった」


 何度も呼ぶが返事はない。崩壊した壁からいくつかの部屋を覗き込んでみるが人影はなかった。用でも足しているのだろうか。だとしたらあまり探し回るのもよくない。もう少し待ってみるかと、譲治は元いたドラム缶の場所に戻った。


「……?」


 ドラム缶の部屋に戻り、譲治は違和感を覚えた。仕分けた荷物の配置が微妙に変わっていた。風に倒されたのかとも考えたが、ものを動かすほどには強くない。だとしたら、戻ってきたマコトの仕業だろうか。


「おい、勝手にいじるなって――」


 肩の部分に鈍い痛み。振り返る、鉄パイプを持った男。今度は頭に一撃。痛みにうずくまると脇腹にもう一撃。殴られた勢いであおむけに倒れた譲治に、男が馬乗りになる。そのまま鉄パイプで喉を押しつぶそうとしてくるのを、譲治は歯を食いしばしながら両手で必死に止める。男の目は焚き火の光を反射し、ギラギラと輝いている。


 譲治は両腕に力を込め、鉄パイプをぎりぎりと押し返す。譲治の食いしばった歯の隙間から低いうなり声が漏れ出す。譲治の力が予想外だったのか、男は動揺してほんの一瞬力が弱まった。その一瞬を逃さず、譲治は男の股間を蹴り上げた。

 鉄パイプを握る男の手の力が弱まる。その隙に譲治はそれを奪い取り、悶絶している男の横顔を振りぬく。鉄のパイプが肉を押しつぶす柔らかい感触と頭蓋骨にめり込む固い感触が、鉄パイプから譲治の掌に伝わる。譲治は男を押しのけ起き上がると、うつぶせに倒れた男の頭を思い切り踏みつける。


 一回、二回、三回。

 四回。


 男の顔を中心に血だまりができたところで、譲治は踏みつけるのをやめた。


 肩や頭に痛みは感じなかった。心臓が割れ鐘のようにやかましく鼓膜を揺らし、体温がどんどん上がり、筋肉が熱でぶるりと震える。ライトを拾い、腰に差していた銃を引き抜く。弾倉を横に振り出し弾丸が装てんされている事を確認すると、ライトのスイッチを入れ直した。ライトの光は不定期に明滅を繰り返す。男に襲われたときに落とした衝撃で壊れてしまったのか。


(あいつ、どこにいる……!)


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