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世紀末救世主になれないおっさんは目が死んでる  作者: 海光蛸八
二章 凍てつく視線
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地下鉄

 小走りで地下鉄の入口までたどり着き、改札口へと続く階段を下りていく。外の薄明かりは階段付近までしか届いておらず、ホームへ続く通路は黒い闇が視界をふさいでいだ。闇の向こう側に何があるかは分からなかった。


「濡れたか」

「いいえ、大丈夫です」


 雨は小雨程度だが、早めに雨宿りの場所は見つけておかなければならない。衣類が濡れれば乾かすのに燃料と手間がかかる。


 何より恐ろしいのは風邪をひくことだ。なんの薬も持たずに体調を崩したら非常にまずい。栄養のあるものも安静にできる場所も簡単には手に入らない今の時代では、ただの風邪でも死につながることが少なくない。それ故譲治は、早めにこの地下鉄に逃げ込んだのである。


「うわあ、ここがエキですか」


 譲治はきょろきょろと視線を動かすマコトを放っておいて、辺りを調べ始めた。こういった雨風が防げるところは、野盗のねぐらになっていることが多い。その場合は入口にスプレーで趣味の悪い落書きが描かれていることがほとんどだ。なぜそんなことをするのかは分からないし、分かりたくもなかった。


 譲治はライトを片手に軽く見まわったが、落書きはどこにも見当たらなかった。奥の方も照らして確認してみる。それほど大きな駅ではなかったため、入り口付近からライトで照らしてみるだけで、落書きのチェックは終わった。


「よし、今日はここに泊まる」

「まだお昼過ぎですけど」


 左手のモニターを見ながら言うマコトに、譲治はわざとらしくため息をついて見せた。


「おい、質問はしてよかったか」

「い、今のはそういうわけじゃ……」

「質問は?」

「……しない、ですね」

「それでいい」


 譲治がぶっきらぼうに言うと、マコトはただ黙って座っていた。子供相手に大人気ないことをしたかと、譲治はほんの少し罪悪感を覚えた。そうしてばつが悪そうに頭を掻き、リュックを下ろした。


「奥まで見てくる。それまでリュックを見張ってろ。中身はいじるな」

「分かりました」


 譲治は懐中電灯と腰に差したリボルバー拳銃だけを持って、逃げるように奥に向かった。マコトの無垢な頭脳は譲治へ近づく方法を練っているのだという事も知らずに。


 譲治は自分を邪魔に思っているようだ。それは当然だろう、なぜなら自分は何の役にも立っていない。ではどうすべきか、何かの役に立つしかない。なにかできることはないだろうか。


 マコトの視線に、譲治のリュックが映った。




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