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世紀末救世主になれないおっさんは目が死んでる  作者: 海光蛸八
二章 凍てつく視線
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鎌猿

「なんなんですかあれ!」

「いいから力を抜くな!」


 譲治たちは崩壊した家屋に飛び込み、鉄製の玄関扉を抑え込んでいた。


 二人に襲い掛かってきているのは『鎌猿』と呼ばれる危険な生物だった。大型犬ほどの大きさで赤茶色の毛が生えた動物で、元の動物が何かは分からない。顔には猿のような面影があるが退化した目は落ち窪んでほとんど視力は無い。


 しかし、メガホンのような形の大きな耳が視力を補っていた。前足は長細く、後ろ半身は大きく頑丈だ。カンガルーのような尻尾もある。太古に生息していた小型の恐竜に、哺乳類の遺伝子を無理やり結合したようなおぞましい姿だった。


 食性は肉食で性格は凶暴。主に小動物を得物にしているが、人間が殺されたという話も譲治はよく聞いていた。体毛は針金のように硬質で、発達した後ろ足の一撃も油断ならない。だが一番の脅威は細い前足の先端についた鉤爪だ。集音機のような耳で得物の位置を感知すると強靭な後ろ足を使って追いかける。呼吸音のする位置に向けて鎌のような鉤爪を振りぬき、切り裂き、仕留めるのである。そこからついた名前が『鎌猿』だった。


「ぐ……ッ!」


 鉄製のドアの外からは、鎌のような前足が風を切る音や、鉤爪が金属製のドアにこすれる音が聞こえる。時折強靭な後ろ足で勢いをつけドアに突進してくると、大きくドアは揺れる。


 譲治は全身の筋肉に力を込めてドアを押さえつけ、マコトも必死でドアに体を押し付けた。銃を使えばそこまで苦戦せずに倒せるが、弾薬は貴重品なので譲治は弾を節約したかった。とはいえ飛び込んできたら撃てるように譲治の手には銃は握られていた。


 数分間、譲治たちと鎌猿の攻防は続いたが、やがて鎌猿は諦めて離れて行った。譲治はそっとドアを開けて鎌猿の姿がないことを確認した。安堵のため息をつくとドアの前にへたり込んだマコトに目を向ける。


「ほら立て、行くぞ」

「ちょっと、待ってください……!」

「あの化け物が戻って来る前に離れるぞ、立つんだ」

「は、はい……」


 マコトを引き起こした譲治の頭に、ぽつりと何かが落ちてきた。天井を見上げると、黒雲が広がる空が見えた。飛び込んだ時には気が付かなかったが、家屋の二階から上は綺麗になくなっていた。


 今度は鼻の頭に何かがぽつりと落ちてきた。指でぬぐうと僅かに指先が湿った。雨粒だ。本格的に雨が振ってくる前に雨宿りできる場所を探さなければならない。譲治が外に出てあたりを見回すと、数十メートル先に地下鉄の入口が見えた。


「あそこで雨宿りするぞ」

「はっ、はい」


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