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魔道士が物理で殴って何が悪い  作者: 杵臼餅之助
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異物が産声をあげる時

初めて筆を執らせて頂きます。駄文量産機の杵臼餅之助と申します。どうぞ今後ともよろしくお願い致します。

昨今の小説ではなにやら異世界転生ものというジャンルが流行っている様子で。私もこの木の筏の如く不安定な処女作を以て処女航海をしようとする阿呆でございますが、皆様のお暇を潰す一助に成ればと思います。

それではどうぞ、ご笑覧ください。

『転生』という言葉を知っているだろうか?


転生とは、生あるものが死後に生まれ変わること、再び肉体を得ることを指し、より細かく説明すると「現世で生命体が死を迎え、直後ないしは他界での一時的な逗留を経て、再び新しい肉体を持って現世に再生すること」と定義されている概念らしい。


まあつまりは、生まれ変わりを指す言葉として使われている。

ちなみにキリスト教における復活や新生とは異なる概念らしく、そこらへんになると流石に説明しきれないから、その辺りはあまり突っ込まないでくれ。面倒臭くなる。


さて、いきなり転生についてどうこう述べてからどうしてこんなモノローグ調の独り語りをしているかというと、ちょっと心の整理をしておきたかったからだ。


どうやらそのご多分にもれず、俺も転生というけったいな現象を経験してしまったらしい。

しかしどういうことだろうか、俺はただの一般人として過ごしていた何の変哲もない社畜で、別に劇的な死を迎えた訳でもなく病に蝕まれてひっそりと逝ってしまっただけなのだが。

·········改めて思い返してみても酷いなこりゃ。

まあそんなごく普通の社会人だったはずだ。その後なんか違うなーと感じた俺はよく分からん思いつきで研究職に転職······した以外は普通の一般人だった。うん、そう思うことにしよう。それで俺は一度死んだはずだった。


これが死というものなのだろうか。身体の先から少しずつ消えていくような、奇妙な感覚を味わった。何も見えないし何も聞こえない、そもそも感じるということがどういったものだったのかも一時的に忘れていた。

随分と呆気ないが、目指すべき目標も何も無く、ただただ生きるだけだった無味乾燥な毎日から開放されるのなら、それもまた良しと思えた。両親よりも先立ってしまうという最大の親不孝が唯一の心残りだったが、これも運命と受け入れることにする。


そうして完全に消滅?するのを待っていたが、感じていたはずの喪失感が急にピタリと治まった。

それどころか、より意識が鮮明になったというか、久しぶりに味わう心地良さで満たされていくような、そんな奇妙な感覚があった。


流石にこれはおかしいと思った俺は、意を決して瞼を開こうと力を入れた。もう死んだのだからそもそも動かす体が無いだろうというツッコミは一先ず彼方へブン投げといてくれ。それは俺も思ったが、そんな事を気にする余裕が無かったんだ。


いい加減長くなってきたから簡潔に結果を述べよう。




「ああぅぅ〜~」




目が覚めたら体が縮んでいた。というか赤ちゃんだった。


·········いやいやいやいや、どういうこった?

ついに人生オワターからの赤ん坊からやり直しとか、何処ぞのちびっ子名探偵もドン引きだわ。こういうのなんて言うんだっけか?ぽ、ぽるら、ぽるれ?えっと、ぽるなんとか状態だっけか。同僚がそんな言葉を言ってた気がする。なんかのアニメのネタだっけか。


まあそれはいい。そんでその転生というけったいな出来事に実際に遭遇してしまったらしい俺は、まさかの赤ちゃんからリスタートと相成った。

正直、この時のことはあまり思い出したくない。

だって想像してみろ。外見こそ生まれたての虫すら殺せぬひ弱な赤ちゃんだが、中身は既に三十路どころかアラフォー世代に入り掛けのオッサンだぞ。

そんな精神年齢三十代の俺が、今生の母親らしき人物からミルクでちゅよーとおっぱい貰う場面に遭遇してみろ。

色んな意味で心が死ぬ。主に罪悪感と申し訳なさで。


そして話は脈絡もなく少年期へと一気に飛ぶが、ここで起こった重要そうなイベントと言えば魔法に適性があるということぐらいだった。


今更だが、この世界には俺が生きた時代のような機械の台頭した文明は無く、代わりに魔法とかが存在するファンタジックな世界だった。

世界中で愛される大人気RPGゲームのように剣と魔法で戦う冒険者達が実際に活動し、歴とした職として働いている世界のようなのだ。その割には魔王とかそんなわかりやすーい悪役は居ないようだが。むしろ居たら困る。


それで俺がこの2度目の人生を歩み始めて7年位が過ぎた頃だった。訪ねてきた親父の知り合いの魔道士により、俺には魔道士(ウィザード)の素質があると判明したのは。


またまたどうでもいい話かもしれないが、今生の俺の親父は元凄腕の剣士だったらしい。その界隈じゃちょっとした有名人だったと酒に酔った親父によって何度も聞かされた。無駄に饒舌だったがそんな何回も語らんでもよーく分かりましたよ。今でも一語一句間違えずに言えるくらいには。


それでその親父の知り合いの魔道士により俺の素質が判明し、その事に喜んだ両親と魔道士(元凶)は俺が何を言う間もなく分厚い辞書のようなナニカやいかにも魔法使いっぽい木製の杖、そして試験管やビーカーのようなガラス容器の詰め合わせ、云わば魔道士スターターセットとも言うべき代物を贈呈され、最早断る空気ですら無くなった。


今思い返すと、これが全ての始まりだったんだろう。

渋々魔道士スターターセットを受け取った俺は、怪文書を解読する研究者の如く辞書と睨めっこしながら知識を蒐集し始めた。

まあ結果として、乗り気ではなかったはずの魔道士への道にどっぷりとハマりこんでしまい、今では自分から研究材料を求めて奔走するくらいにのめり込んでしまった。

それからというもの、魔道士を育成する学校に入学し、学業の傍らに冒険者として活動する事で実戦経験と研究資金をとにかく掻き集めた。


この時が、俺にとって最も大きな転換点だったんだろう。

あんな決断を下してしまった昔の自分を心底ぶん殴りたい気分だ。


魔道士というのは、魔法を扱うというその特性から全体を支援する事においては他の追随を許さない支援職だ。

勿論攻撃魔法もあるにはあるし、寧ろ強力な威力を伴った魔法は数多くある。だがやはり、魔道士は基本矢面には立たないし、なによりもまず近接戦闘には向いていない。

当然だ。剣士を始めとした近接職は真正面からぶつかることを念頭に置き、体を鍛え、技を磨くのだ。

対して魔道士は魔法を扱うことに特化しているのだから、前面で戦う必要が無いからこそ、剣や槍を振るうように体を鍛える事はまず無い。つまりだ、魔道士は自分以外の戦闘職が居ない時点で詰みが確定しているのだ。


だがそんな事を気にしていたらキリがないんじゃないか?と皆は思うだろう。確かにそうだ、その通りだとも。

だが、それが気になりだしたからこそ問題なのだ。


他人に埋めてもらうこと前提の欠点をそのままにしておくというのは単なる思考の停止だ。これでも生前は一応研究者の端くれ、テーマとなるものが目の前にあるというのに背を向け敗北を認めるなど、あってはならんのだよ!


とはいえ、それだけが理由じゃない。勿論他にもある。

人間関係なんかもそうだ。冒険者として活動するのならパーティを組むのは必須。特に魔道士はその辺をしっかりしないとヤバイ。俺の場合は基本その場その場で知り合った人と組んだりすることが多い。俗に言う野良というやつだ。

俺が危惧しているのは、まず互いに見知った顔ではない人物とパーティを組むため、咄嗟の連携が合わないというデメリットがどうしても出てくる。

敵だって馬鹿じゃない。基本相手にするのは害獣指定されている魔物が主だが、彼等だって生きているのだ。手負いの獣にはより一層気を付けろとよく言われるが、まさにその通り。ちょっとした隙や連携の瓦解を狙って的確に狙ってくるし、最後の足掻きといわんばかりの突拍子のない行動により手痛いしっぺ返しを喰らうハメになるし、最悪こっちの(タマ)が取られる。

だから、そういった連携を重視してくれる人と組むのが野良パーティを組む上での鉄則だ。


ここまではいい、許容範囲内だ。むしろ問題なのはもうひとつの方。個人間での意見の食い違いこそが一番の問題だ。

人間である以上異なる意見を持ち、それが噛み合わない事など当たり前なのだが、偶に居るんだ、難癖つけたり自分の事を棚に上げて偉そうに講釈たれてくる、そんなタチの悪い馬鹿が。

『お前の支援が遅いせいで予想以上の被害が出た』とか『魔道士なんだからポーションとか必要ないだろ』とか、『お前は全然役に立たなかったじゃないか。もちろんお前の取り分はその分だけ減らすからな』とか······あー思い出したらイライラしてきた。あんの野郎今度会ったらぶん殴ってやる。


おっと、話が逸れた。まあそんな感じの問題が浮かび上がってくる訳だ。


単純な話、面倒臭くなった。

だが魔道士である以上一人で戦うのは無謀極まりないし、自殺志願者となんら変わりない。

それに、俺の場合はもう一つ問題がある。

魔法の展開速度だ。簡単なものならそう時間は掛からない。しかし大規模なものや複雑な式を構築しなきゃならん物だと話が変わってくる。別に頭脳のレベルがどうのこうのってわけではない。これは偏に俺の体質的な問題だった。

魔力を巡らせるのが常人よりもワンテンポ程遅く、構築する魔法の式が複雑かつ大規模なものほど魔力を行き渡らせるのに時間がかかってしまうのだ。


以上が、俺が頭を悩ませている発端にして理由だ。

正直死ぬ程どうでもいいと思ってる人ばっかりだろうが、俺にとっては死活問題だ。


基本遠距離からの攻撃手段しか持ち合わせていない魔道士ではどうしようもない問題。そこはもう妥協するしかないと諦めるのは簡単だ。だが、それを敢えて克服してこそ、乗り越えてこそ見えるものがある。あるはずなんだ。

世の中にはもしかしたら、そんな相性とか弱点とか全部吹き飛ばせるトンデモねぇ魔道士が居るかもしれん。

現に冠位魔道士(アークウィザード)とかいう半ば化け物認定されてる奴が実存してるくらいだ。なら、全ての魔道士が抱える悩みを解決することも不可能じゃない。

俺は日夜考え続けた。頭が沸騰するくらいに考え続けた。

それでも答えは出ない。当たり前だ。そんな簡単に解決するなら、初めからこれだけ悩んでないし、世の魔道士達も苦労してない。


この時は本当に切羽詰まっていたんだ。全くの門外漢な親父に遠隔通信で相談するなんてことやってんだから。

ただ愚痴を聞いてもらいたかったとか、初めはそんな風に思っていた。端から期待してなかったし、誰かに話を聞いてもらいたかっただけだったんだろうな。


だからこの後に、親父から齎された言葉に衝撃を受けたのも、全くの予想外だった。




「だったら、遠近どっちもこなせばよくね?」




この言葉が、俺の頭の中を光速で駆け回った。

完全に頭が逝ってたんだろうな。普通ならそれはねえわと一笑に付しているくらいアホな答えだからな。しかし不覚にも、俺はその言葉に感銘を受けてしまったんだ。



その手があったか······!とな。




そこから後の行動は自分でも戦慄するほど早かった。学校に少しの間だけ帰省すると告げて、親父に稽古をつけてくれと頼み込んだ。家に帰れる時間はそう多くない。だから俺は、まず自分の扱いやすい武器を探す事から始めた。

剣、槍、斧、戦鎚、片手棍、短剣、鎌、そして極めつけは徒手空拳。色々と手に取ってみて吟味した結果、一番手に馴染んだのは槍だ。俺としては魔道士が常に扱う長物の杖と同じように使う事が出来る槍は本当に有難い。

それからというもの、基本的な槍の型を教えてもらってからはとにかく槍を振り回して練習した。衝く、斬る、払う、そして叩き付ける。単純な動作だがこれをより洗練なものにするにはかなりの時間と苦労をかけた。手にタコが出来た時は本当に痛かったわ。それも今となってはいい思い出だがな。

それで、俺は時間の許す限り、授業や研究の合間を見つけては槍を振り回し、また振り回し、我武者羅に振り回した。


そして、俺は答えに至った。


近接をこなしつつ強力な魔法をぶち込むという、俺が見出した一つの完成形。

頭沸いてんじゃねぇのかと思われるのが関の山だろうが、俺はそれを形にした。実際にそれを完成させたのだ。嬉しくないわけがない。


そして最後。これが致命的だった。


俺なりの答えに辿り着いた喜びからか、調子に乗って様々なクエストを一人で受け、その全てを片っ端から片付けた。

とにかく嬉しかったんだからしょうがないっちゃあしょうがない。だけど一度止まるべきだったんだ。そうじゃなきゃ────



「······どうしてこうなった」



こうして『肉体の悪魔(フィジカルモンスター)』とか『イカれた槍兵(ストレンジランサー)』とか『生きた突撃魔法(マジックストライカー)』とか、魔道士の皮を被った化け物呼ばわりなんてされなかっただろうに。


もう一度言おう、どうしてこうなった!!!






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