終章
クシは、ロネを近くの木にもたれさせると、生き残りを探しに出た。
幸いにも、戦場から少し離れたところでノズが生きていた。
寄って来る『狐』を殺しながら怪我人を守っていたらしい。
ノズの後ろには五人の鳥たちがいた。うち二人は翼を負傷して飛べそうになかった。
戦争の終結を知らせると、ノズたちは怪我人に気を遣いながら天樹へと戻っていった。
クシはその後も日が暮れるまで捜索したが、ノズたちの他には誰も生きていなかった。
クシがロネを連れ帰ってから、一日が経った。
アソンたちは昼の内に再度地上に降りて、死んだ隊員たちの遺体を一部だけでも探した。
その間に女子供たちは葬式の準備を始めた。
ロネはその間、ずっと家にいた。
二日目になると、葬式が開かれた。
皆が天樹の室の前で涙を流す間、ロネは家の中に一人でいた。
三日目。クシがロネの家を訪ねた。
ロネの目は依然として虚ろだったが、話はできた。
話し始めたのは、ロネの方からだった。
「なあ。クシ」
「ん? どうしたの?」
ロネはクシに、天樹の下に下ろしてほしいと頼んだ。
「どうしてそんなことを?」
「家族の……皆の墓標を作りたいんだ」
「……そう」
クシは、ハーネにだけは事情を説明して許可を求めた。
ハーネは何も言わず、ただ頷いた。
一度家に戻り、身支度を済ませて再度クシが家に行くと、同じく身支度を整えたロネと、ハーネが待っていた。
ロネの手を取り、「それでは」とクシが言うと、ハーネは「ちょっと待って」と引き留めた。二人を抱擁して、「いってらっしゃい」と涙ながらに送り出した。
どうしていいか分からず、「それでは」とだけ言って、クシはロネと共に地上に下りた。
地上に立つと、ロネは近くの木を数本切り倒して、手に収まるくらいの直方体の墓標を人数分作った。それから一本ずつ、丁寧に短刀を使ってそれぞれの名前を彫っていった。
クシはずっと、天樹での仕事がある時以外、ロネに付きっきりで世話をした。
ロネは寝ることもなく、食事もクシが食べさせる木の実だけで、ずっと墓標を彫り続けた。
彫っては並べ、彫っては並べ、その繰り返しだった。
墓標を彫る中で、ロネは独り言のように呟いた。
「クシ。俺は、この天樹の下を治める」
「えっ。ロネ、いきなり何を」
クシの言葉を遮って、でも答えを、ロネは淡々と紡ぐ。
「この戦争で、初代がいなくなった。それだけじゃない。皆死んだ。そしてここには、豊富な木の実と川がある。近くにいる狐たちは、必ずここに勢力を伸ばそうとしてくる。西の狐たちはないにしても、それ以外からは来る。だから、それを食い止める」
無感動に言うロネに、クシは言い返した。
「簡単に言わないでよ! あんたに何が」
「安心しろよ、クシ」
激情的で熱いクシの口調とは対照的に、ロネの言葉は、嫌に落ち着いていて。
「俺は、誰にも負けないから」
狂気すら感じさせるほど、冷たかった。
それからもロネは、黙々と墓標を彫り続けた。
墓標を作り始めてから三日が経った。
朝、クシが起きると、ロネの手は止まっていた。
「ロネ……大丈夫?」
止まっていた手がぴくりと小さく跳ね、ロネは声のした方へ顔を向けた。
そしてクシの言葉に、無表情を向けて答えた。
「大丈夫だ、クシ。いま作り終えたので、最後だから」
ロネが持っているのは、キオの墓標だった。




