バス
田舎の山間の道にひっそりとあるバスの停留所。その停留所には一日数本しかバスがやってこず、乗り逃すと数時間待つ必要があった。
停留所を目前にした二人の男が、バスに乗り遅れまいと走っている。
「おい、早くしろ。そら、バスがやってきたぞ」
二人の男、中年男性の方が今にも停留所に着こうとしているバスを見ると、急かす口調で一緒に走っている青年に言った。だが、青年は何かを確認して、落ち着き払い答えた。
「何だ、急ぐ必要などなかった。ほら、あそこを見てみなよ」
青年が指を差したバスの前面上部、行き先案内には『回送』との文字が表示されていた。中年男性はほっと一息つき、声を漏らす。
「そういう事か。それなら良かった。お、丁度良い所に喫茶店があるぞ。次のバスまで、あそこで時間を潰すとしよう」
二人は停留所の手前にあった喫茶店に入っていった。
回送バスではなく、回送という名の終着所行きバスは、停留所に利用者のいない事を認めると、そのまま走り去っていった。