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1.佐藤の目覚め

鳥のさえずりが聞こえた。

しばらく頭が真っ白になっていたが、ゆっくりと頭が働くようになってきた。

鼻を柑橘系の匂いがつく。視界はまだ暗いが、嗅覚がここは少なくとも都内ではないと俺に認識させた。

とてつもない違和感を持ちつつ俺は目を覚ました。

目の前にそびえ立っているのはゲームの中でしか見たことがないような城下町。奥には城があり、自分のすぐ近くには守衛が商人風の恰好をした人間と話している。

鼻についた柑橘系の香りの原因が分かった。商人は柑橘類の香りを荷台に所狭しと積んでいる。

だが商人は守衛と揉めているようだ。

城と逆側を向いてみる。ここでこの城下町が丘の上に立っていることに気づいた。

城を出るとそこは一面の緑である。緑はすべて草木によって作られている。


「死後の世界は蓮の葉が並んでいたり楽園だとか言われたりしていたがこんなのだったとはな……」

俺はあの少女の訪問より前からずっと思っていた。

自分の人生は目的のない、レールにただ乗せられ、流され続ける人生なのだ。なんとなく大学を卒業し、なんとなく就職し、なんとなく生き続け、なんとなく死ぬのだろう。それなら早く死んで死後の世界に行ってしまえばそれが自分の転機になるのではないか、と。

だが目の前で守衛と口論をしている商人の姿を見ると聞いていたような幻想的なところ、いわゆる楽園(パラダイス)、極楽浄土などというものではないように見え、ひどく落胆した。

 だが「死後の世界」というものがあっただけ喜ぶべきだろう。でなければあのクソガキから殺されてそのままどうなっていたかわからない。などと考えていた。

自分の足元に違和感を感じ、自分の足元を見る。自分の靴と足との間に紙のようなものが折られて挟まっている。不思議に思い、その手紙を開いてみたが自分の知っている言語で書かれたものではなかった。

「英語ともドイツ語とも絶対違うよな……そもそもラテン系の言語なのかこれは?」

死後の世界というのは言語も全く違うらしい。

「一応持っておくか……」

そう言ってまた靴に挟まれていた時と同じように折り直し、自分のポケットに突っ込んだ。

恰好は少女の訪問に対応した時のままであった。白いTシャツに安売りで買ったジーンズ、素足をそのまま覆う靴というコンビニに行くにもふさわしくないような恰好だ。

「とりあえず入ろうとしてみるか」

門を通ろうと、商人と守衛の横をするすると抜けて通ろうとした。

「'#%"*@.:!」

何を言っているかは分からないが壁の向こうにいた守衛が大きな声を上げた。

私に向かって怒号を飛ばしているらしい。何かまずかったか。

その時だった。

「ま、待ってください!」

日本語だ。どこかで聞いたことがあるような声だったがそれは私を安心感と不安でいっぱいにした。

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