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0.執行対象者 佐藤

 ドアが叩かれた。

 それまで俺は、都内のワンルームマンションの狭い自分の部屋で、手持ち無沙汰に、下着姿で上を見上げるように体を倒して、天井についた黄色とも茶色とも言えない汚れを見つめていたのだが……突然の訪問者のドアの音がそんな静寂を壊してしまった。

「誰だよ、こんな時間に」

 起き上がり、髪をぼりぼり掻き、あくびをしながら怪訝(けげん)そうに壁にかかった時計を見る。頂点に達しようとしている短針に追いつこうと、長針が「11」を回り、短針と同時に「12」へと到達した。そして短針は追い抜かれる。

「俺の母ちゃんでもこんな時間にドア叩いたりなんかしねえよ、ったく」

 「あの~……すみませ~ん……」

 弱々しい声がドアの向こうから聞こえた。このまま無視し続けて行かない、という道はなさそうだった。大きな溜め息が吐かれる。

「それにしてもどこか恐いよな、もしかして俺を殺しに来た殺し屋だったりして」

そんな冗談を言いながら、周りに散らかっていた服を着ながら、

「今()きまーす」、そう返事をした。


 ドアを押す音がした。

 目の前には、この時間帯に外にいるにはあまりにも幼すぎる女の子、学年にして小学校6年生くらいだろうか。金色の髪、瑠璃色の瞳、肌は大理石をそのまま持ってきたかのような白さだ。黒色のフリルのワンピースに身を包むその少女の姿は、かつてどこかの街角で見た、ショーケースの中のビスクドールを脳裏に浮かばせた。

 「え~と……N大学に在学中の佐藤様のお宅はこちらでしょうか?」

「そうだけど……こんな時間にどうしたの?おうちに帰ろ?」

家出だろうか、帰れないような事情があるなら警察を呼んで保護してもらわなければ……などと考える。

だが次に彼女の口から発せられたのはこの世にいる中で誰も聞いたこともないであろう言葉であった。

「エーリュシオン保安部、第8執行部から参りました。本人確認ができたのでこれより()()に入ります」


一瞬胸のあたりに痛みを感じた。

目の前がゆっくりと暗くなる。


しばらくの間頭が真っ白になっていた。

比喩ではなく、言葉の通り真っ白だったのだ。

まるで死んでいるかのように。

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