完全殲滅作戦 猿の章 荼衡鳳埜傲鐔(たこうほうのごうたん)
既に広域探索網を張ってから三週間がたった。未だに猿・霧島両名の動きはまだわからない。霧島の雄祐がいる温泉を見張る天童と鹿島は未だに見張りを続けている。近くにいる藤堂と有馬も動いていない。天童らは同心であり、神影流の同門生で15年以上の付き合いである。
「未だに動きがないのはなぜだ?」
「知るか。あいつらに聞けよ。」
「おい藤堂知ってるか?」
「関係ないですよね俺。そもそも霧島らに聞けという意味じゃないのか?」
「………マジ?」
「アホだこいつ。」
「るせぇ。黙ってろや。」
「軽口叩いでないで見張りを続けろ。」
「お悪うござんしたよ有馬クン。」
「ぶっ飛ばすぞてめぇ。」
「堂々巡りする気かあんたらは。」
「悪い悪い。」
話をしている間にも目立った動きは見られなかった。今日見張りはじめてから4時間が経過しており、彼らも暇をもて余しているという訳である。既に昼時に差し掛かっており、彼らは昼食を取り始めようとするとき、ガラッと音がした。
(ここから小声になります)
「おいあれを見ろ。」
「誰だ?」
「知るか。だがあの宿から出ている時点で、霧島の配下であることは間違いないはずだ。」
「誰か尾行する必要があるな。」
「鹿島、行けるか?」
「分かった。だが貴様らは引き続き見張りを続けろ。」
「了解。」
鹿島は尾行を始めようとするとき、また戸が開いた。鹿島らは素早く隠れ出てきた男を注視した。男は辺りを見回した後、中に向けて手招きした。
「先程の仲間か?」
「多分そうだろう。だが中にいる人が気になる。」
「確かにな。」
そうこうしているうちに、中から出てきた。その人物に見覚えがなかったが、盗賊崩れなどは彼を見てこういう『一夜の為蔵』と。
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そうとは知らない彼らだが、為蔵が先程の人物が去った方向に向かっていく。
「鹿島追えるか?」
「分かった。だがもう一人必要だ。」
「有馬、頼む。」
「了解。引き続き見張りをよろしく頼む。」
有馬と鹿島は為蔵を追っていった。藤堂と天童は引き続き見張りをしている。昼食を食べながら……であるが。
「なかなか出てこないな。」
「今何時だ?」
「………15時過ぎだ。」
「そんなたつのか。」
「他の者の交代はないのか?」
「無い。一週間後交代だ。」
「周囲に建物があってよかったが、他はないところもあるんだろ?」
「小田原などは海岸近くの掘っ立て小屋を見張っていたりするからな。」
「辛いなそれは。」
他愛の無い話をしていると、約60m離れた十字路から人影がわいた。その人物は揺ったりとしながらこちらへ歩いてくる。人物は藤堂らが宿泊する宿へ入ってきた。
「誰だ?」
「知るか。警戒はした方がいい。」
その時後ろの戸が開いた。与力の郡山である。
「お疲れなようだな。」
「お久しぶりです、といった方がいいでしょうか。」
「そうだな。しかし未だ動かんとは。」
「致し方ないことでしょう。尻尾を出すまで辛抱強く待つばかりです。」