禁断の力と想像創作
「そうそう自己紹介が遅れたね!私の名前は『ヘファイストス』性別は♀百合だよ!愛を込めて『ヘパイス』と呼んでくれたまえ」
名を告げたヘパイスだが・・・蜜柑の神経はある箇所に一点集中している為、耳に入らない。
もちろんそれは指である。
「モミモミ・・・モミモミ・・・」
触れれるプリン--そう表現するのが一番「シックリ」くるその感触を、何度も何度も確かめる蜜柑。
「ふむ、そこまで喜ばれると、以外に悪い気はしないな」
ヘパイスは蜜柑の顔を見て自分の感情を言葉にする。
蜜柑の顔、それはそれは大いに乱れ、とんでもなく乱れ、あり得ないくらい乱れていた。
至極当然--そんな光景を見せられ御淑やかに成れる筈も無い2人は、女を捨てる・・・嫌・・・人を捨て「鬼」と化す。
「「いつ迄・・・触ってんのよ!・・・この・・・腐れ蜜柑ぁぁーーーんん!!!」」
この瞬間の為に長い年月を費やしたかの様に息ピッタリな2人。
繰り出される必殺技!
『回転廻し中段蹴り』
リリスは蜜柑の背中を!
理夢は弁慶の泣き所を!
本来なら直進運動になる必殺技、しかし2つは同等の力で、尚且つ対局で軸がズレた直線運動によりそれは回転運動に変貌を遂げる。
少し宙に浮きその場で高速回転する蜜柑。
鼻から放出される赤い液体が弧を描く。例えるなら『スプリンクラー』もしくは『ネズミ花火』。
女性という生物の本能なのであろうか?
最初は固い表情で互いを見合うリリスと理夢も、綺麗に飛び散る赤い液体を前に、次第に互いは顔を緩める。
そしてリリス・理夢は、波の満ち引きで戯れる子供の様に「キャッキャ」と飛び散る赤い液体が身体に触れない様に、笑顔でそれを楽しんだのであった。
理夢の友達となる為の唯一無二の条件それは、自分の本気をぶつけられる相手、そう本当の自分を曝け出していい相手であった。
当の本人には自覚はないものの、近寄り来る相手にはそれとなく自分を見せていた。
しかしそれに充てられた人間は泣く、もしくは心を折られ、結果理夢には友達が出来なかったのであった。
互いの目の前に居るのは本当の自分そのもの、曝け出そうが何の問題も無く相手も言い返す。
こんなに清々しい事はない。
そんな2人は互いに距離を詰め、手を差し出し「ガッチリ」握手を交わす。
「あなたの事を認めるわ!蜜柑以外はね!!!」
「あなたの事を認めます!蜜柑以外はね!!!」
ほぼ同時に放たれる2人の言葉、それを聞いた2人は自然と口元が吊り上がるのであった。
体内の血液を驚異的な回転運動で、無理やり外部へ放出させられた蜜柑。
そんな蜜柑の視界は霞む。
リリスを中心に3人が「花一匁」の様に横並びに手を取り合っている事に気がつく。
「ハァハァ」息の荒いヘパイスは無視して、リリスと理夢が手を繋いでいるのを見て、口元が緩む蜜柑。
しかしこの状況下は非常に寂しい蜜柑。そして怖かった・・・
そう花一匁には禁断の終わり方が存在するからだ。
「蜜柑ちゃんはいらな~い」
何よりも怖いその言葉。3人のメンツを見る限りそれはあり得る事態。
少し視界が定まってきた蜜柑は、千鳥足でヘパイスの横に並びヘパイスの手を取る。
緊急回避する蜜柑。
本当なら理夢と手を繋ぎたい蜜柑であったが、先ほどのキスの件とリリスへの体裁を気にして、中立とも呼べるヘパイスの手を取ったのであった。
もちろんであるが4人は横並び、誰も前に居ない状態である。
沈黙が生まれる・・・
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
これでは一向に話が進まないと観念したヘパイスが『想像創作』の説明に入る。もちろん目の前には誰もいない4人は横並びである。
「このカードに書かれている項目に添ってイメージすれば、それが具現化するのだよ、1枚賭ける(ベット)でも、10枚賭ける(ベット)でも構わないよ、増えれば増える程威力は倍加するからね!ただしその分想像する幅が狭くなるのは当然だけどね」
何故か横並びのまま顔を真直ぐ向けヘパイスの話に耳を傾ける蜜柑、リリス、理夢。
蜜柑はカードをポケットにしまい、その中から空いた手で試しに2枚カードを引いてみる。
そのカードには『白』と1文字だけ書かれたカードと、そしてもう1枚は『粉』と書かれたカードを引き当てた。
蜜柑は目を瞑り『白』と『粉』の連想する物をイメージする。
すると・・・
「地獄豪炎」でビフォーアフターした店の天井吹抜けから、深々と白い結晶が舞い降りた・・・
「なっ?!」
思わず言葉が漏れるヘパイス。
--なんと言う事だ!
手を放し降り注がれる白い結晶の元に駆け寄るヘパイス。
そして手を翳しその白い物体に手に触れる。
「つ、冷たい・・・」
--有り得ない!!!
ヘパイスに続き何も知らない3人は降り注ぐ白い結晶を手に受け入れると「冷たいね」と呑気に言葉を交わしている。
ヘパイスは険しい顔をしながら蜜柑に近づき言葉を掛ける。
「み、蜜柑君これは・・・雪かな?」
「あ、はい粉雪を想像しました」
「申し訳ないが君のステータスを見せて貰っていいかな?」
「あ、はい、ちょっと待って下さいね・・・どうぞ・・・」
蜜柑のステータスを食入る様に見るヘパイス。
そして見つけた・・・
神々が定めし理を曲げるスキルの存在・・・
その名は『錬金魔法』と『二次妄想』。
それを見た蜜柑が言葉を漏らす。
「あれ?こんなスキル持っていませんでしたよ」
「ふむ、先ほどのパンドラの箱との接触の際に覚えたのだろう!・・・ふふふふ・・・あははははは!!!実に楽しいよ君は!ホントに楽しい!あはははは・・・」
「どうしちゃったの???いつも変だけど・・・今日は特に変だよヘパイス・・・」
3人は首を傾げて笑い続けるヘパイスを心配そうな目で見るのであった。
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--『アスガルド』楽園環境管理室
モニター越しに足を机の上で組み長方形の箱に喋り掛ける白い翼と輝く日輪を持つ天使の姿がある。
「ねぇ~なんで私こんな事してるの~」
長方形の箱に話掛ける天使。
「もう~ウリエルったら、それは言わないって約束でしょ~」
長方形の箱から声が聞こえる。
「はぁ~花形の異世界転生部に配属されるのは何時になるのやら・・・」
「ふふふふ、ウリエルったら口を開けば、そればっかりね」
「そりゃ嫌にもなるよ!楽園の環境管理なんて仕事今まで何も問題が起こった事が無い部署だよ~?暇で暇で死んじゃうよ私・・・」
「ふふふふ、それだけ問題があったら駄目な場所って事じゃないの!分かってるくせに」
愚痴るウリエル。しかしそれは仕方がない事であった。
ウリエルが今いる場所は楽園の環境をモニターする部署。
選ばれた生きる者が住む場所それこそ楽園、それは賢人・賢者が住む場所である。
次世代の神候補であるそこに住む者は、神宝級の生きる者達であり、その者達に何かあればそれこそ一大事であった。
故に楽園は徹底した環境管理が成されている。
神々が幾多もある魔法を無効化する魔法式が楽園には施されており、如何なる状況下であってもその魔法式にあがらう事は今の今まで発生し得なかった。嫌有り得ない事であった。
ウリエルの仕事はその魔法式の管理であり、1ヶ月に1度程度にその魔法式のメンテナンスを行うのが神に与えられた責務であった。
神々が創りし力である魔法はもちろん法則が存在し、それを解明するのも、生み出すのも、神々だけの特権である。
言い替えれば魔法が主となるこの宇宙で、魔法を独占している生きる者、それが『神』と呼ばれる存在なのであった。
いつもと同じ様に同僚に愚痴を言うウリエル。
そして・・・
それは起こった・・・
「ウーーー!ウーーー!ウーーー!」
異常を知らせる警報が鳴り響く・・・
「えっ?!!!」
ウリエルの瞳孔が肥大する。
理解が出来ないウリエルは暫く放心状態となる。
「ねぇーウリエルこれ何の音?!もしかして警報なの?!!!」
長方形の箱からの声に反応して我を取り戻すウリエル。
長方形の箱を投げ捨て環境異常を知らせるモニターを見つめるウリエル。
赤く点滅して環境異常を知らせるランプは、人型の大陸『ミッドガルド』を示していた。
ウリエルはモニターを指で操作して『ミッドガルド』の詳細データに目をやる。
異常ランプが示す『ミッドガルド』の環境異常は気温であった。
常時『ミッドガルド』の気温は魔法式により24℃に設定されている筈なのだが・・・今の気温は18℃!!!まだまだ下がる気温!!!
「なっ馬鹿な!!!」
言葉を漏らしモニターを指で操作して『ミッドガルド』の魔法式の確認を急ぐウリエル。
無数にある魔法式を瞬き一つする事無く、慎重に、高速に確認するウリエル。
しかし・・・
「魔法による干渉では無い!・・・魔法式には問題なし・・・」
額から汗が吹き出るウリエル。
「何故?!何故?!何故?!何故?!何故?!何故?!・・・ハッ!!!・・・」
1つの可能性がウリエルの脳裏に浮かぶ。
それは物理的な環境変化だった。
「大群のフロストドラゴン等の氷の世界の生き物が何かの手違いにより『ミッドガルド』に押し寄せた?」
それも「ハッキリ」言って有り得ない状態であった。しかしそう考えるしか無かったのだ。
そしてウリエルは『ミッドガルド』の街の様子を目で見る為にモニターを指で操作して『ミッドガルド』の街をモニターに表示させる。
それを見たウリエルは・・・
「あ、あ、あ、あははは、何だよこれ?、あははは・・・嘘だよね?・・・どうなってるの?・・・」
ウリエルが見た『ミッドガルド』。
モニターに写し出された『ミッドガルド』には・・・
『雪』が降っていたのだ・・、
それは絶対にあり得ない事であった。天候は全て魔法陣によって管理されている。雪は降らせるには魔法式を解除しなければならない。
楽園は全てが魔素で構成されている。
神々の魔法式で生きる者以外は全て魔法の元である魔素である。
空気も大地も海も山も木も全て魔法式で構成された魔素であった。
それらは作るのも消すのも全てが魔法式の影響下で管理左右されている。
なのに・・・
『雪』が降る・・・
そうそれは・・・
神々の力が及ばない力の存在を見せしめるもの・・・
つまり・・・
楽園を崩壊へと導く力・・・
言うなれば・・・
神々を死に導く禁断の力が存在する事を示していた・・・