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赤坂理夢

 --赤坂理夢あかさかりむ


 彼女の家は一般家庭より遥かに裕福であった。

 父親は某有名会社の研究所長。職種は人口知能研究。一般的にはAIと呼ばれる研究である。


 彼女の家の教育は徹底しており、同年代より進んだ知識を始め、言葉使いも徹底したものであった。


 そんな「赤坂理夢あかさかりむ」はもちろん同年代から疎まれ、友達と呼べる存在はいなく登校・下校は何時も1人・・・嫌・・・何時も金魚の糞が付いて歩いていた。


 その糞の名は早乙女蜜柑さおとめみかん


 --いつも笑顔で私に話し掛けてくるウザイやつ。


 蜜柑みかんが何故付きまとうのか?それはハッキリした理由が簡単に読めて見えた。

 理夢りむは護身用に空手をたしなみ、その才覚は数々の大会で優勝する程であった。


 理夢りむの必殺技。


 『回転廻し中段蹴り』


 それを駆使して蜜柑みかんを上級生から庇った事があった。

 それを機に、お互い知ってはいた程度の関係が一方的に話掛けられる存在となったのだ。


 今日も何時もと変わらない毎日の筈であった・・・



 --下校時間


 最後のホームルーム、つまらなそうに片肘を机につき先生の話を聞く理夢りむ


 話が長く、同年代の他のクラスの生徒はもう下校しているのが広いガラス窓から見える。

 そして・・・何時もの様に校門で理夢りむの下校を待つ蜜柑みかんの姿。


 --はぁ~いつもいつも飽きないわね!


 ウンザリする理夢りむ


 ホームルームが終わり階段を降りて下駄箱へ。

 自分の場所の下駄箱の前蓋を開ける理夢りむ。しかしそこには靴が無い。


 周は「クスクス」笑う同年代。


 --はぁ~馬鹿みたい!


 理夢りむは気にせず上靴を脱ぎ、靴下を脱いで裸足で下校。

 それを見て呆れる同級生。



 校門で待つ蜜柑みかんを何時もの様に無視して家路に足を進める。


 --どんだけ鈍感なのよコイツ!


 蜜柑みかんは笑顔で話し掛け、理夢りむの裸足には話題にもしなかった。

 そのまま家に着き何事もない様に振る舞う理夢りむ



 --次の日。


 いつも家の門で待ち伏せる金魚の糞がいない。

 少し驚いたが、特に気に留める事無く登校する理夢りむ

 登校の際、理夢りむを見る生徒の「ヒソヒソ」声が聞こえる。

 全く動じる事がない理夢りむ


 学校に着き下駄箱を開けると隠された靴が入っていた。

 それも動じず、上履きに履き替え、階段を登って自分のクラスに足を進める。


 ホームルームが始まり、終わりに先生から声を掛けられる。


 「この後、赤坂あかさかは職員室に来なさい」


 同じクラスのから「ヒソヒソ」話が聞こえてきた。


 「分かりました」


 先生に続き理夢りむは職員室に着き、話をされる。


 「なぁー赤坂あかさか昨日靴隠されたのか?」


 「はい、隠されました」


 「そうか・・・なぁー理夢りむ早乙女蜜柑さおとめみかん知ってるよな?」


 「誰ですか?それ」


 「はぁー・・・まぁいい、昨日、早乙女蜜柑さおとめみかんがな・・・・」


 話が終わり職員室の中へ一礼してドアを閉める。


 訳が分からない話をされた・・・

 全く理解が出来ない話・・・


 理夢りむは自分のクラスでは無く、蜜柑みかんのクラスへ向かう。


 勢いよくドアを開ける。


 「蜜柑みかんいますか?!!」


 理夢りむの顔は怒っていた。

 怯える生徒達。


 「み、蜜柑みかん今日風邪引いて休みだって・・・」


 怒りが収まらない理夢りむ

 下校の時間になり、走って蜜柑みかんの家に向かう。


 「ピンポーン」


 チャイムを鳴らし家から出て来たのは母親だった。

 理夢りむを見るなり嬉しそうに話し掛けてきた。


 「あら~あなた理夢りむちゃんね、噂は何時も蜜柑みかんから聞いてます」


 「・・・・」


 --あの子にしてこの親!抜け過ぎにも程がある!!!


 「蜜柑みかんに用なのよねぇ~でもごめんなさね、あの子今、風邪引いてて・・・」


 「はい、知っています。・・・昨日の事・・・ご存知ですか?・・・」


 少しビックリする母親であったが、直ぐ理夢りむにニッコリ微笑んで。


 「ふふふふ、出来た息子でしょ」


 たった一言だった。




 --話にならない!


 母親に頭を下げてその場を逃げる様に立ち去る理夢りむ


 --何!何なの!あの親子!あり得ない!!!


 家に着き、何時もとは違い落ち着き無く、直ぐ部屋に籠り、怒りを露わにする。


 --ふざけないでよ!誰が頼んだのよそんな事!!!


 ベッドにうつ伏せになり怒りを打つける様に、枕を強く握る。



 「コン、コン、コン」


 部屋をノックする音。


 「理夢りむ少し話があるんだけど・・・」


 「分かりましたお母様、直ぐ行きます」


 暫くしてベットから立ち上がり、乱れた髪を直して、母親が待つリビングへ足を進める。


 そこには珍しく早く帰宅した父親も座っていて、母親が理夢りむの前にココアを出して父親が話しを始める。


 「今日学校から電話があったよ・・・」


 「・・・・」


 「靴を隠されたんだってな?」


 「・・・・」


 「まぁーそれはよくある事だ!それはいい、しかし・・・」


 理夢りむは、その話の内容は直ぐに理解した。恐らく自分が指図して蜜柑みかんを使って犯人捜しをしていたのだろうと疑われている。


 自分の本当の姿など誰にも見せた事が無い理夢りむ。いつも自分を殺し特に父親・母親の前では完璧でいたつもり。


 --なのにこれ?


 正直笑いが込み上げてきた。




 その時・・・


 「ピンポーン」


 家のチャイム音が鳴る。

 父親と母親は出鼻を挫かれた思いでお互いを見合い、肩の力を抜く。


 「はぁ~出なさい・・・」


 父親の一言で母親が席を立ちインターホンのボタンを押す。


 「はーい」


 「あの~早乙女さおとめですけど・・・」


 驚く理夢りむの両親。


 「す、直ぐ此処にお迎えしなさい!」


 あたふたする父親。

 急ぎ迎える様に玄関に向かう母親。


 早乙女家の両親とマスクをした蜜柑みかんがリビングに姿を現わせる。

 理夢りむにニッコリ微笑む蜜柑みかん

 目を逸らす理夢りむ


 「す、すいません、本当ならこちらから出向くべき事なのですが・・・」


 頭を掻き軽く頭を下げる理夢りむの父親。

 理夢りむの母親は直ぐに台所に向かいお茶の用意を始める。


 「ど、どうぞ腰を下ろして下さい」


 予定外の訪問者に先に席に腰を下ろす理夢りむの父親。


 蜜柑みかんの両親と蜜柑みかんはそんな理夢りむの父親に・・・


 一糸乱れず・・・


 深く頭を下げた。


 「・・・えっ?!・・・」


 絶句の理夢りむの父親。

 蜜柑みかんの父親が言葉を掛ける。


 「この度はウチの馬鹿息子が大変ご面倒をお掛けしまして、本当に申し訳ありません」


 「えっ?・・・いや、その・・・」


 「この馬鹿息子のせいで、そちら様の娘さんにエライ誤解を与えてしまい本当にすみません」


 蜜柑みかんの父親が蜜柑みかんの頭を1回殴る。


 「痛い・・・」


 「どうお詫びをしていいやら・・・本当にすみません・・・」


 「いえ、いえ、こちら『本当にすみません!!!!』」


 理夢りむの父親の謝りの言葉を打ち消す、蜜柑みかんの父親の「すみません」。それは立場が悪くなった理夢りむの援護射撃であった。

 何を話そうとしても蜜柑みかんの父親は息子が勝手にやった事、理夢りむには非はないの一点張りで話しにならない。

 それを悟った理夢りむの父親は「もう分かりましたから」としか返答する事しか許されなかった。


 最後に理夢りむの父親に「ありがとうございます」と手を強く握り、頭深くを再度下げて「でわ、私達はこれで失礼します」と嵐の様に来て、嵐の様に去って行く早乙女さおとめ家。



 暫く放心状態の赤坂あかさか家。


 --恐らくこの早乙女さおとめ家訪問は蜜柑みかんのお願いによるもの・・・このまま返せない・・・一言伝えないと・・・


 「私見送り行ってくる!」


 理夢りむが駆け出す。

 靴を履き、玄関を出ようとした時、理夢りむの父親が声を掛けてきた。


 「理夢りむ・・・その・・・いい友達を持っていたんだな・・・」


 その言葉に少し戸惑う理夢りむであったが・・・

 瞳を輝かせ笑顔で言葉を返す。


 「・・・はい、私の自慢の友達です!」


 ・

 ・

 ・

 ・

 帰路に足を進める早乙女さおとめ家。3人を呼び止める声がする。振り返る3人。


 「す、すみませーーーん、待って下さい!」


 理夢りむであった。


 「いや~しかし本当可愛いお嬢ちゃんだな!オイ!蜜柑みかん中々センスいいな!お前!!!」


 茶化す蜜柑みかんの父親。


 「じゃー父ちゃん母ちゃんは撤収するぜ!上手くやんな!」


 「大事なお嬢様なんだから風邪うつすんじゃーないよ!いつでも家おいでと伝えとくんだよ!」


 「う、うん分かった」


 帰路に戻り手を振り先に帰る両親。

 少しして理夢りむ蜜柑みかんの元に到着する。


 「ハァハァハァハァ」


 手で膝を押さえ肩で息をする理夢りむ


 「だ、大丈夫?理夢りむちゃん」


 心配する蜜柑みかんの尻に。


 理夢りむの必殺が炸裂する。


 『回転廻し中段蹴り』


 「ギャフン」と少し前に身体を持っていかれる蜜柑みかん


 「アンタねぇー!!!あり得ないのよ!普通靴隠した奴見つけてフルボッコにして、靴探すんでしょ!!!それなのに!なんであんな事したのよ!!!」



 --不思議とコイツの前では本当の自分でいられる。


 そう完全無視など本来なら理夢りむにとっては出来ない行為であった。でも蜜柑みかんの前ではそれが出来た。



 「あははは、ごめんなさい・・・僕あんな事しか出来ないから・・・」


 「プライド無いの!男でしょ!!!なんであんな事出来るのよ!!!」



  --こんな駄目男見た事無い・・・



 「う、うん・・・ごめんなさい・・・」



 --ほら、直ぐ謝る。



 「同学年102人、私と、アンタ抜いて、100人よ!!!」


 「う、うん・・・」




 「100人の家回って・・・


 『理夢りむちゃんの靴返して下さい』って・・・


 土下座するなんて・・・


 ホントに有り得ない!!!」




 --ホント有り得ないよ・・・風邪なんか引いて・・・




 「ごめんなさい・・・」


 「なんで謝るのよ!!!」


 「ごめんなさ・・・」


 両手でマスクの上から口を塞ぐ蜜柑みかん



 --又直ぐ謝る。



 「はぁ~ホントにアンタってやつは・・・どうしょうも無いわね!」


 苦笑いを浮かべる理夢りむ


 「ホント馬鹿で、アホで、頼んなくて・・・でも・・・・・・」


 口が緩む理夢りむ



 --ありがとう。



 「ん?理夢りむちゃん何か言った?小さくて聞こえなかったんだけど・・・」


 「うっさいわねぇ~アンタ風邪引いてるんだから!さっさと家向かうわよ!」


 「り、理夢りむちゃん!!!もしかして風邪引いた?顔赤いし、僕を送るなんて!!!」



 --しかも鈍感!!!



 「うるさぁぁぁーーーい!!!こっち見るなぁぁーーー!!!さっさと歩けぇぇーーー!!!」


 「あうーー蹴らないでよ・・・」


 「何か言った!!!」


 「何も・・・」


 「・・・」


 「・・」


 「・」


 こうして2人は会話が途切れる事無く蜜柑みかんの家に着いた。そしてその後の2人は笑顔が絶える事なく2年間を過ごす事になる。


 そんな日がいつまでも続くとこの時はそう思っていたのだろう・・・


 しかし・・・


 運命は残酷なもので・・・



 2年後、赤坂理夢あかさかりむ早乙女蜜柑さおとめみかんの目の前で無残な姿で他界する事となる。

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