第9話
本日2話目です。
ご注意ください。
3つの街はそれぞれ特徴がある。
1番近い街は北にある森の東側にあって、木工や革細工や裁縫と園芸が主要な街・クルトだ。
ケトル村とそう大差ないらしいけど規模は5倍くらいあって、周辺の村々から木や毛皮や繊維類が集まってくる。
もちろんの事だが狩猟による肉類や採集による木の実なんかも集まりはするが、それらは各村で消費された残り物なため流通量はそうでもない。
2番目に近い街は西の丘を越えた先の山の麓にあり、鍛冶や彫金などの鉱物加工とその鉱物の採掘が主要な街・ガストだ。
山の中腹にある鉱山付近にも街があるが、そこまで含めてがガストの街だ。
鉱山口付近が上街、麓が下街と呼ばれている。
両街間にはレールが敷かれてあって、トロッコで鉱石が運ばれている。
3番目に近い街は南の草原を南東方向に越えた先にある東西に流れるシンク川沿いの街・リーンで、商業が発展した街ゆえか割と様々な施設がある一方、水産物以外のあらゆる物を輸入に頼っているので物価が非常に高いらしい。
元々は漁業が盛んな街だったが、陸路を北に向かえばクルトの街があり、川を上ればガストの街が、下れば王都がある。
つまり、王都西方地域の交通の要所にあるのが、このリーンの街なんだな。
ついでに言えば4番目に近い街が王都になる訳だ。
1足跳びに王都に向かう事は出来るけど、行ったところで冒険者ギルドからは依頼が受けられないし、川下り船にも乗れないから行くのが非常に面倒臭い。
王都で冒険者になろうと思ったら、まずは街か村を目指す必要があるらしい。
というのも、王都の冒険者ギルドにある依頼はギルドランクB以上のものしかなく、王国中の難依頼のみを扱っているからだ。
あとは貴族や王家関連の依頼もあるが、これらはコネでもなければ受けるどころか依頼がある事すら知る事も出来ないらしい。
じゃあ、王都住民で冒険者になろうと思ったらどうするのかと言うと、冒険者ギルドで登録するとケトル村まで馬車でドナドナされるんだとか。
ま、この辺は一応、ゲームの設定って言うか、世界観を考慮したものとなっているらしい。
実際、全プレイヤーはケトル村からのプレイ開始になるから関係ないしな。
「リーンの街まで候補に入れてんのか。まー、どの街から行ってみても問題ないっぽいから良いんだが、空牙的には何処押し?」
「ガスト」
「なるほど。お前と悟志の装備作りか」
空牙が頷く。
確かに、2人の装備を充実させる事はパーティー全体の安全性の向上に一番寄与するしな。
納得だ。
てゆーか、マジシャンの五月ちゃんも含めて武器の面で恩恵があるし、それは火力アップに繋がる。
一見するとマジシャンの五月ちゃんは関係なさそーに思うかもしれないが、あそこは魔石と呼ばれる宝石の原石や、魔法具に良く使われる銀やミスリルなんかの鉱石も掘れるらしいからな。
「ガストを目指すとなると、レベルは6くらいは欲しいか……」
「だな。アップデート後でも良いかもしれないが、今の内に多少なりとも鉱石類を確保しておきたい」
「え? 掘れんの?」
「かなり初期に掘ったプレイヤーが居た。今では忘れ去られた話題だがな」
「どーやって掘ったんだ?」
「噂しか流れてない。『ウェポンスキルで崩落させた』という、な」
ふむ……。
そいつが本当ならあるいは……。
「やってみる価値はあるかもな……」
「うむ」
「よし! んじゃ、レベル6になったらガストに向かおう!」
「ちょっとちょっと! なぁに勝手に決めちゃってんのよ!」
空牙と2人で方針を決めてると、アルバイトを終えた美也子がやって来た。
ガスト行きを決めた理由を説明すると、美也子も納得してくれた。
「でさ、どのみちアップデートを待ってクリエイタークラス取得後に装備を作るんでしょ? だったらいっそのこと、初心者装備のまま行っちゃわない?」
割と無茶な事を美也子が言う。
オレらは良いとしても、少なくとも悟志と空牙くらいは防具を変えた方が良い。
例え胴鎧のみだとしてもな。
でないと、悟志や空牙はかなりツラい事になるしな。
それを美也子にも分かりやすいように説明してやった。
「そっかぁ……。じゃあ、ひと先ず悟志君と空牙君の胴鎧を買うのを目標にしよ!」
「それが良いだろうな」
「うむ」
「じゃ、そういう事になったって、五月ちゃんと恵麻ちゃんにメールするね」
「分かった。悟志にはオレから伝えとく」
「おっけー」
3人で頷き合う。
まぁ、女性陣も含めて、オレら6人共お互いのメールアドレスや連絡先なんかは知ってるんだけど、こーゆー時の連絡担当は大体オレが男性陣、美也子が女性陣に取るようにしてる。
仲の良い友達同士とは言え、五月ちゃんも恵麻も割と良いとこのお嬢様だからな。
一応気を使うんだよ。
「あ、美也子」
「ん?」
「ほい、何時もの。おばさんによろしくな」
そう言って和風マカロンセットの箱を美也子に手渡した。
「ありがと」
受け取りつつお礼を言う美也子。
「最近どうなんだ? おばさんの調子」
「先生の話だと、治験の効果は出てるみたい」
「そっか。完治すると良いな」
そう言って美也子の頭を撫でてやる。
おばさんは美也子の10歳下の弟を産んだ直後から体調を崩し始め、去年の健康診断で心臓病と診断された。
幸いというか、隣の市に大きな心臓及び循環器を専門とする先生の居る大きな病院があり、月に何度か通院して、数ヵ月に1度1~2週間程度の入院を繰り返してたし、半年前にはペースメーカーを埋め込む手術も受けてる。
また、薬のせいで血液が固まり難くなっているから怪我をすると大変な事になりやすいため、長年勤めてきた手作り弁当店のパートも辞めたそうだ。
そうでなくてもちょくちょく休まざるを得ないから申し訳なくなったってのもあるらしい。
そんな中、その病院で行われる予定だった治験の候補におばさんが推薦された。
上手くいく保障はないが治療費は病院持ちになるし、検査のための通院費も入院費もタダになるとあって、おじさんもおばさんも即答で受けたらしい。
家事全般は美也子の4歳上のお姉さんがやってくれているとか。
服飾系の専門学校を卒業後、すぐに実家に帰って来てくれたらしい。
本人曰く、「花嫁修行に最適!」だとか。
だが、あのお姉さんに彼氏が居るという浮いた噂は聞いた事がないんだけどなー。
「うん!」
美也子はくすぐったそうにしながらも眩しい笑顔を返してくれた。