第8話
本日1話目です。
「ふーん。クリエイターにギャザラーにプレイヤーホームか」
「桃弥なら興味をそそられる話だろ」
「ま、確かにな。でもクリエイターとギャザラーを今更実装って、クラスチェンジ実装かサブクラス追加かしかねーよな」
「両方、と見た」
「……空牙が言うとマジで当たるからなー。で、理由は?」
「吉仲女史の態度」
オレの問いにひと言で答える空牙。
記事を読み返してみる。
「……なるほどなー。確かに古菅さんがここまで漏らしてるのに吉仲さんがオフレコにしてねーのは間違いなさそうだな」
「だろ?」
「プレイヤーホームとクリエイターは暫くお預けだな」
「あぁ。ホームは無理だろ」
「クリエイターは?」
「頑張れば或いは」
客足が途切れてるから、しばし黙考する。
確かに、空牙が考えてるように、今週のオレらの頑張りをアップデートまで続けていければ、もしかしたらアップデート前までに1番近い街までは普通に行けるようになってるかも知れねー。
でも、ホントにホームは無理……か?
「済みませーん」
レジで黙考中のオレは女性客に声を掛けられた。
どうやら黙考してる間にレジカウンターに来てたようで、カウンターには2冊の雑誌が置かれていた。
「失礼致しました。いらっしゃいませ。」
女性客に謝罪をして雑誌のバーコードを読み取る。
清算を済ませた後でもう1度女性客に謝罪。
今はまだバイト中。
黙考するのは後だ。
それから店長達と交代するまでは真面目にアルバイトに打ち込んだ。
でも、さっきの客の時の事は店長から注意された。
ま、全面的にオレが悪いんだから仕方ねー。
アルバイトの時間が終わり、空牙と連れ立って通用口から外へ出ると外はまだ明るかった。
5月も下旬になるとはいえ、午後6時だと一応まだ明るい。
書店の表側に回り、書店入口に向かって左手にあるドーナツ屋に入り、まだカウンター業務をしている美也子の前に向かった。
「栗きんとんサンド抹茶あずきクリーム2つとカフェ・オ・レ、空牙は?」
「抹茶オ・レ」
「抹茶尽くしか、やるなー。あと、和風マカロンセットをテイクアウトで」
何時ものように注文して金を払う。
テイクアウトを注文したのは美也子の大好物だからだ。
たまに買ってやらないと機嫌が悪くなるからなー。
とは言え、テイクアウトの和風マカロンセットは5個入りで750円もしやがるから中々な出費だ。
ま、月1程度で問題ないから安い出費なんだろーけどな?
美也子のバイトは午後7時まで。
まだあと45分はある。
トレーに乗せられた商品を美也子が手渡してくれる。
「…何かあったの?」
手渡しざまボソッと美也子が呟く。
「ま、ちっとな。終わるまで待ってるから」
「うん、分かった」
それだけ言って、オレらはイートインコーナーへ向かう。
当たり前だが美也子は次の客の対応だ。
イートインに向かう際にちらっと見た美也子はすっげー良い顔してて、オレらの後ろに並んでたスーツ姿の男性客は顔を赤らめてた。
あれでアイツも笑顔は可愛い方だし、今まで見てきた限りだと結構な人気店員だからな。
そう、笑顔は可愛いんだ。
だが、やっぱ足りねーよな、ある部分が。
そう思って美也子の顔から視線を下に下ろし見やると、気付いたら接客が終わった美也子に睨まれてた。
どこをどんな気持ちで見てたかバレバレだったようだ。
美也子のバイトが終わるまでダラダラとイートインコーナーで過ごした。
空牙はタブレットで何かやってたし、オレはオレでどうやってプレイヤーホームを早く入手出来るかを考えてた。
何度考えても今の状況じゃどうにもならねー。
そもそも、プレイヤーホームの値段や入手手段が未発表なんだから、今のオレらに出来る事っつったら金を貯める事とレベルを上げる事しかねー。
もちろん、1番近い街まで行けるようになる事もだけど、それにしたってレベルを上げない事にはどーにもなれねーしな。
つまり、焦っても仕方がねーって事だな!
そう結論付けて顔を上げると、空牙がオレを見てて話し掛けてきた。
「随分考え込んでいたようだが、その様子だと答えが出たか」
「まーなー。ホーム手に入れんのが当分先になるのは仕方ねーから、焦らず楽しむしかねーってな」
「ふむ、開始1週間の若造集団だ。仕方あるまいが、それで納得出来るのか?」
「出来る・出来ねーじゃなく、納得するしかねーってとこだな。それに、『ワールドハーフ・オンライン』はMORPGだから、ホームはインスタンス扱いになると思うんだよ。なら、場所取りとかで焦る必要ねーなーってな」
空牙にオレなりの考えを披露した。
実際、VRじゃない頃からMORPGのプレイヤーホームはインスタンス扱いなのが当たり前だ。
MMORPGでも特定エリアにのみプレイヤーホームを持てるタイプのゲームだと、数軒から100軒くらいの単位でインスタンス扱いだったりもしたしな。
多少の取り合いはあるものの、概ね問題はなかったよーな気がする。
中には通常エリアにプレイヤーホームを建てられるゲームもあったけど、そーゆーのは結構殺伐としてたなー。
不法侵入して保存箱からアイテムやお金を奪ったり、果ては放火やモンスタートレイン……つまり、わざとモンスターを沢山引き連れてきて、ソイツらの暴走でホームを破壊したり、隕石でクレーターにして中身もろとも消滅させたり……。
ホント、ろくなことなかったなー。
「一応調べてみた」
そう言って空牙はタブレットをこっちに向ける。
そこにはケトル村周辺のモンスター分布の傾向と冒険者ギルドからの依頼の有無、さらには適正レベルと思われるレベル帯などが記されていた。
非常に分かりやすい。
しかも、地図は結構な広さの範囲を網羅していて、1番近い街までの経路どころか別の方向にある2番目と3番目に近い街までの経路も網羅していた。