第22話
本日1話目です。
本日21時予定の3話目で一旦終了となります。
騒々しいティータイムを終えて本日3度目のログイン。
落とし穴として掘ってた穴の中にログインしたオレらは、さっきの2組に分かれて湖の周辺を左右に分かれて探索する事にした。
何か見付けたらショートメールで知らせ、夜が明けたら落とし穴の所に集合する事にした。
オレと美也子と五月ちゃんは西回りで回る。
月明かりに照らされた湖面は波1つない。
幸いにして灯りを灯す必要もない程の光量を放つ月のおかげで危険もない。
相変わらずゴブリンも現れないしな。
そうやってのんびり月夜のデートを瘤付きで楽しみながら歩いて、湖の北西側に着いた。
美也子が島だと言ってたのは、細い桟橋状の突き出た地形の先にある丸い場所だと判明した。
何故なら、目の前にその桟橋みたいなのが湖面ぎりぎりの高さで島まで繋がっているのを発見したからだ。
一応、湖底までちゃんと土があるから、あれは島じゃなく半島みたいなもんなんだろーけどな。
「美也子、ワニの気配、感じるか?」
「ちょっと待って」
美也子が『フィールドソナー』と『視覚強化』で注意深く見渡す。
「……んー、見える範囲には感じないし、『視覚強化』で分かる範囲にもワニっぽいのは見えないね」
「て事は、居るとしたらあの小山の……って、美也子」
美也子の肩を抱き寄せて、突き出た小島状の半島の小山の天辺を指差す。
「ん? って、ちょっと!? め、五月ちゃんだって居るのにそんな……」
とか言いながらも美也子は目を瞑ってオレの方に唇を突き出してた。
五月ちゃんは両手で目を覆ってるが、顔はオレら2人の方をロックオン中だ。
しかも明らかに指の隙間から覗いてる。
美也子の額にチョップを見舞う。
額を押さえて涙目になり少し拗ねる美也子。
随分可愛くなったもんだな。
「それは家の前でいつもしてるだろ。じゃなくて、あそこを見てくれねーか?」
「いつもしてるんだー……良いなー……」
オレが指差した方向に美也子が目を向ける。
五月ちゃんにもきっといつかいい人が現れるさ!
一瞬細めた美也子の目が限界まで見開かれる。
「見間違いじゃねーみてーだな」
「うん! 淡く青く光ってる稲みたいなのがあるよ!」
興奮した美也子が右手でオレの左腕を叩く。
割と痛い。
美也子の声に五月ちゃんも見ようとする。
「どこどこー?」
「あそこだよ!」
美也子が五月ちゃんの後ろに回って肩越しに指差して教える。
そして2人で抱き合いながら跳ね回る。
無事に五月ちゃんも見付けられたよーだ。
しかし、何で女子はあんな風に跳ね回って喜ぶのかねー?
ミニスカートみたいにした学校の制服でも良くやってるし。
ま、おかげでオレらはおパンツ様を拝めるんだから文句はねーけどな!
とは言え、今の2人はボトムスタイルとロングローブだから見えねーんだけどな。
「さて、一応悟志達にはメールしたが、大丈夫かねー?」
「どうかな。見える範囲には居なさそうだけど、あの向こう側に居たら分かんないしね」
「そーなんだよなー」
「どうするの?」
んー……っと腕を組んで考えるが、行ってみない事には始まらないというのは変わらないんだよな。
美也子を見る。
少し首を傾げて見詰め返してくれる。
やっぱこれしかねーかなー。
「美也子」
「なぁに?」
「オレと2人であそこまで走って取って来ねーか?」
「土が付いた根っこごと採取してくるんだっけ?」
「あぁ。もしあの陰にワニが居たとしてもオレと美也子なら気付かれない可能性もあるだろーし、やってみる価値はあると思うんだ」
「そうね。むしろ私達ふ、夫婦にしか出来ないよね」
顔真っ赤にして何言ってんだか。
可愛過ぎるだろ。
「無理してそーゆー事を言わんでも……。まぁ、オレらにしか出来そーにねーのは間違いねーけどな」
「むー……」
はいはい、むくれても可愛いだけだから止めなさい。
「て事で、ちょっと2人で行ってくるから、五月ちゃんはここで悟志達を待っててくれよな?」
「うん、分かったよー」
「ごめんね、五月ちゃん」
「んーん、大丈夫だよ、みーちゃん」
すすすーっと美也子に近寄る五月ちゃん。
「それよりー……ぼそぼそぼそ」
五月ちゃんが美也子に何か囁いてる。
きっと陸でもない事に違いない。
何せ美也子が顔を赤くして頷いてるからな。
「んじゃ、行くぞ」
そー言ってしのび足で桟橋状の細い所を渡り始める。
「あ、待って待ってー」
美也子も慌てて追い掛けてくる。
もちろんフィールドハイドを使って存在感を薄くして、だ。
下手するとオレでも居場所が分かりづらいからな。
渡りきるまでにワニの気配も襲撃もなかった。
オレらの足音で湖面に波紋が立つかと思ったが、そんな事もなかった。
岸から5分で問題の小山の麓に着いた。
未だワニの気配はない。
先頭に立って小山を登る。
小山の高さは7mくらいか。
そんなに高い訳でもねーけど、坂はちょっとばかし急だった。
四つん這いになって登る。
目的の場所に登ってみると、小山の反対側が目に入った。
東側はなだらかな坂で木が生えてた。
……これ、東側の岸から見たら、普通に対岸にしか見えねーんじゃね?
美也子は良く島だって判断したなー。
視覚強化のおかげとはいえ、凄いもんだ。
ともかく。
オレは初心者の短剣を抜いて、淡く青く光ってる稲みたいな植物を根ごと掘り起こす。
その間、美也子は警戒だ。
意外に根っこが深くまで伸びてて、掘り起こすのに苦労する。
結局、根っこは30cmもあった。
メチャクチャ長いな、おい。
掘り起こした植物をインベントリに仕舞って美也子と頷き合う。
念のために周囲を見渡したが、同じ植物は見当たらなかった。
急な坂をゆっくり下り、細道を渡る。
岸まであと半分。
僅かに油断があったんだろーな。
「きゃっ」
美也子が小さく悲鳴をあげた。
坂道で靴底に着いた泥で足を滑らせたんだ。
左足が湖面に触れ、水飛沫と波紋を起こす。
マズイ!
オレは美也子の手を取り立ち上がらせると、その手を引いて走り出す!
ザッパーン!
凄まじい水飛沫を撒き散らしながら巨大ワニが現れた!
しかも悪い事にオレらと岸との間にだ!
ワニがオレらの方を向いた。
すかさずインベントリから麻痺茸の詰まった袋を取り出す。
念のために用意しといて正解だったな!
「島に走れ! 美也子!」
そう叫ぶと、後ろから遠ざかる足音が聞こえた。
ちゃんと動けたみたいだ。
それに安心してると、巨大ワニが大口を開けて突進してきた!
「お前はこれでも食ってろ!」
オレも巨大ワニに向かって走り、麻痺茸の詰まった袋を投げ込む!
と同時にジャンプして初心者の短剣を巨大ワニの鼻先に突き立て、そこを支点にして巨大ワニの背中側に着地した。
巨大ワニは訳も分からないまま口に放り込まれた物を飲み込んだ。
だが、自分の正面に遠ざかる獲物が残ってるのに気付いた巨大ワニは、美也子に向かって突進していく!
「美也子!」
咄嗟に叫ぶ。
その声に気付いた美也子が一瞬振り向くも、そのまま巨大ワニに食らい付かれてしまった!
そしてデスロール!
美也子のアバターは一瞬にして消滅した。
オレは愕然としながらも、瞬時に頭に血が昇ってしまった。
叫びながら巨大ワニに向かって走る桃弥。
「てんめぇ! よくも美也子を! 殺す! 殺す! 殺してやる!」
直ぐ様巨大ワニの背中に取り付く桃弥。
初心者の短剣を巨大ワニの頭に突き刺した!
本来ならワニの頭蓋骨はとても硬く、ちゃちな短剣など刺さるはずもない。
だが、初心者の短剣は確かに巨大ワニの頭蓋骨を貫いて刺さってしまった!
脳を直撃する激痛にのたうち回ろうとした巨大ワニだが、オレが投げ込んだ麻痺茸の影響で体が痺れだし動けなくなってしまった。
それを好機と取ったオレは、巨大ワニの頭部に突き刺さった初心者の短剣をより深く押し込んだ。
その一撃はワニの脳を破壊し、遂には仕留めてしまったのだった。