第19話
本日2話目です。
ご注意ください。
美也子との婚約騒動があってから2週間。
今日はアップデート前の最後の日曜日だ。
金曜日までの5日間で経験値は80%まで溜まった。
今日には遂にレベル6になる予定だ。
だが、今日はもう1つ目標がある。
グランツさんからお願いされた『月宵草』の捜索だ。
念のため今日はずっと森を探索する事になってる。
ま、初日に出会ったフィールドボスのグレートボアに出会うとは思えんが、普通のボアとかホブゴブリンとかには遭遇するだろーな。
いや、間違いなく遭遇する。
11時過ぎには全員揃ってログイン出来た。
当然のようにアミューズメントパークの入り口前では佐々木さんと美也子のひと悶着があったのは言うまでもない。
最早日常茶飯事だ。
最近では平日でも恵麻を迎えに来るので、帰宅時にも巻き起こる。
恵麻が言うには、佐々木さんは割と本気でオレを狙ってるらしい。
……本当かよ……。
冒険者ギルドでゴブリン討伐とボア討伐を受けた。
薬草採取は納品依頼だから、帰ってきてからでも問題ないしな。
先ずは初日と同じよーに道なりに森へと入る。
北上すると例のグレートボアの目撃地点に行っちゃうので、西北西に進路を取る。
すると第1猪発見です。
一般的なサイズのボアが地面を掘っております。
早速近付いてみましょー。
って、そりゃー気付かれるわな。
こっちに向かって突進して来たんで散開する。
「おっ始めるかぁ!」
悟志がゴブリンガーを構える。
今や悟志のメインウェポンだ。
大物を相手にする時にはタワーシールドに切り替えるが、こーゆー雑魚の時は大体ゴブリンガーだ。
ボアの突進に合わせて顔の高さから斜めに剣先を下ろして待ち構える悟志。
そこに突進してきたボアは頭を下げて牙を突き刺そうと迫る。
が、悟志は冷静に1歩横に逸れてかわすとゴブリンガーを寝かせ、すれ違い様にボアの体に剣先を合わせる。
ボアの硬い体毛に沿うように合わせられたゴブリンガーの剣先は、ボアの体に浅い傷を残した。
「Pugeeeeeeeeeeee!」
ボアが痛みで吠える。
ボアは少し離れた所でUターンして、再度悟志に突進してきた。
今度は逆側を切り裂かれるボア。
悟志に翻弄されている。
3度目の突進をかわした際に悟志は『挑発』を使い、ボアのヘイトをロックさせた。
そこからは五月ちゃんと美也子の独壇場だった。
五月ちゃんのマナボルトがボアの足を削り、美也子の『シャープシュート』が目を貫いた。
足と目を封じられても暴れまわるボア。
止めを差したのは五月ちゃんだった。
マナボルトなら多少当たり所が悪くてもダメージが通るからだ。
逆に何も出来なかったのがオレと空牙。
何せ近寄れねーんだもん。
突進してる時はもちろん、足を封じられてからも大暴れしやがって、オレらの攻撃じゃあ却って危なかったんだよな。
空牙は槍を弾かれて悟志にぶち当てそうになるし、オレは蹴りを貰ってはね飛ばされたしな。
折れた足での蹴りだったからダメージはそーでもなかったし、恵麻に回復してもらったから大丈夫だ。
死んだかとは思ったけどな。
ドロップアイテムはボアの牙2本と毛皮1枚、それにボタン肉5kgだった。
所々に生えてる薬草を採取しながら森を奥へと進み、時々ボアと遭遇して倒す。
今のところホブゴブリンは見掛けない。
そもそも、斥候役のゴブリンすら見掛けないのだから当たり前だ。
1時間程のんびり進んでると、遠くからギャーギャーとゴブリンの叫び声がしてきた。
どうやらボアエリアを抜けてゴブリンエリアに突入したらしい。
そして第1ゴブリン発見です。
3ゴブパーティーで、武器構成は剣剣弓。
一応弓ゴブリンがリーダーのようで、剣ゴブリンに指示を出してキノコを採取させてるようです。
早速近付いてみましょー。
って、だから!
気付かれるだろっての!
流石に騒がれると厄介なので、オレがしのび足で弓ゴブリンの背後に近付き、後ろから首を一撃。
それと同時に美也子と五月ちゃんが剣ゴブリンをそれぞれ一撃で倒した。
流石にもうゴブリンは余裕だな。
剣ゴブリンが採取してたキノコを五月ちゃんに『物品鑑定』してもらったら、麻痺茸と出た。
食べると麻痺してしまうらしい。
毒キノコかよ!
その後も同じ構成のゴブパーティーに何度も遭遇し、初めて見るキノコを見付ける度に『物品鑑定』してもらった。
普通にHPを減らす毒キノコに、眠りに誘う枕茸、しゃっくりが止まらなくなる癪茸に、MPが減り続ける鬱茸なんてキノコもあった。
中には舞茸やシメジ、松茸といった食べられるキノコもあったのは嬉しい誤算かな。
ホブゴブリンは呼ばれないと来ないのか?
全く遭遇しないホブゴブリン。
仕方ねーから何度かわざと弓ゴブリンを生かしてみた。
案の定、弓ゴブリンはホブゴブリンを呼んだ。
どこから来るんだ? ホブゴブリン。
雑魚ゴブリンも相変わらずの剣剣弓弓編成。
ある意味『イベントモンスター』なのかねー?
あ、ホブゴブリンの武器は3回呼んで全部両手剣だった。
ゴブリンガーのドロップはなかったけどなー。
持ってるメンバーが居ない事が条件なのか?
それとも単にドロップ率が渋い割にビギナーズラックでゲット出来たのか?
分からねーけど、とにかく2本目のゴブリンガーは手に入らなかった。
残念。
2時間程進むと、急に開けた場所に出た。
森の中の大きな湖だ。
「キレーな湖ダネー」
「そうね」
「泳ぐのー? 泳ぐのー?」
美也子達が騒ぐのも分かる気がする。
日の光に照らされた湖面はまるで鏡のように森と青空を写している。
木々に遮られているため風もなく、波が立ってないからだ。
ここが危険な森の中にある事を忘れてしまうのも無理はない程の美しさだ。
「だが妙だな」
「あぁ、ゴブリン共が居ねー」
そう、ゴブリンが居る森で湖があるのに、ゴブリンの集落は見当たらないんだ。
普通、こーゆー場所に集落を構えるよな?
水は大事だろーし。
……待てよ?
疑問に思ったオレはみんなに湖から少し離れるよーに言って、美也子と2人で偵察に出る事にした。
どーも湖が気になる。
五月ちゃんはちょっと不機嫌顔だった。
ボタン肉を取り出して短剣で少し削り、美也子の矢の先にボタン肉の欠片を突き刺した。
それを湖の沖の方に向かって射ってもらう。
ボタン肉付きの矢が着水した直後、大きな水飛沫をあげて巨大なワニが水面を跳ねた。
「やっぱりかー……」
「何よあれ……」
オレは頭を抱え、美也子はワニに驚いてる。
みんなの方を見ると、みんなも概ね同じだった。
「ここは離れた方が良い」
そう言って美也子の手を取ってみんなの所に戻る。
悟志達も同じ意見になったよーだ。
今居るのは湖の東側なので、南回りで湖を迂回する事にした。
湖が見える範囲で移動すると、ゴブリン達には全く出会わなかった。
おそらく、あのワニが怖いからだろーな。
オレらだって怖い。
だが、逆に考えるとこの辺はワニ以外にモンスターが居ないとも言えるんじゃないか?
昼飯の時間も迫っているし、ここで一旦中断ログアウトを提案してみた。
「そーだな。念のためにと簡易結界も買ってきたし、良いんじゃねーか?」
悟志の言った簡易結界とは、ゲーム中にどーしても安全じゃない場所でログアウトせざるを得なくなった時に、安全にログアウトするための消費アイテムだ。
ただし、1個銀貨10枚もする。
何でこーゆーアイテムが必要かと言うと、村や街などのセーフティーエリア以外でログアウトしよーとすると、ログアウトするのに10分掛かるんだ。
その10分間を安全に過ごせないとログアウトは中止されてしまう。
なので、その10分間を安全に過ごすための手段として用意されてるのが、この簡易結界って訳だ。
ちなみに、次回にログインする時は、ログアウトした場所か、一番最後に立ち寄ったセーフティーエリアかのどちらかを選べたりする。
ログアウトした場所を選ぶと、同じよーに10分間だけ安全に過ごせる結界が張られ、そこで準備をする事が出来るんだ。
選択出来るのはパーティーリーダーのみだけどな!
という訳で、オレらは簡易結界を使ってログアウトする事にした。
もちろん、次のログイン時にはここに戻ってくるつもりだ。
じりじりと時が過ぎ、何事もなくログアウトする事が出来た。
そーゆーアイテムなんだから当たり前だが。