第16話
本日1話目です。
翌日。
月曜日の気だるさを抱えて教室に入る。
「ちぃーっす」
「おーっす」
「「おはよー」」
空牙と美也子以外から挨拶返しをされた。
空牙は右手を挙げただけで机に突っ伏してる。
また夜更かししたんだな。
「あれ? 美也子は?」
美也子の机を見るも、美也子の姿はなかった。
それどころか鞄もねー。
「まだ来てないヨ」
「とーちゃんと一緒じゃなかったんだー?」
「だからとーちゃんゆーなって。いや、もう出たって言われたからさ」
足をぶらぶらさせた五月ちゃんにツッコミを入れながら答える。
美也子の姉ちゃんは確かにもう学校に行ったって言った。
ここまでほぼ一本道だから追い抜いた訳でもねー。
でも学校に来てる様子はない。
そーこーしてる間にホームルームが始まった。
美也子はまだ来てない。
担任も連絡は受けてないらしい。
「旦那は何か聞いてないのか?」
「誰が旦那だ。いや、聞いてねーよ」
「自覚あるんじゃないか。そうか」
それだけで担任は済ませた。
それで良いのか? 担任よー。
結局この日、美也子は学校に来なかった。
そしてアミューズメントパークにも。
美也子抜きでレベル上げをする気になれず、この日は何もせずに解散した。
帰り道、美也子の家に寄ってみた。
学校から連絡があったらしく、美也子の姉ちゃんが怒ってた。
家にもまだ帰ってなかった。
「どこ行ったんだ? 美也子」
思わず呟く。
夜になっても美也子は帰って来てないようで、おじさんから電話があった。
警察にはまだ届け出はしてないらしい。
日付が変わっても見付からないようなら出すらしい。
オレも心当たりを探す。
昔遊んだ河原や小学校、近所の公園、おばさんの通院先の病院、駅、アルバイト先のドーナツ屋。
それらを見て回ったが美也子は見付からなかった。
「どこに居るんだよ、美也子は!」
見付からない焦りでイライラしてついつい独り言が溢れる。
落ち着くために息を調え、大きく息を吐いた。
そして空を見上げる。
今日は快晴。
月が満月に近いせいで星は良く見えない。
と、不意に美也子と初めて会った記憶がよぎった。
あれはオレがこの街に引っ越して来た日の夕方だ。
あの日も今日みたいな満月に近い月が出てて、それをもっと良く見ようと裏山に登ったんだ。
そして神社の境内の端で美也子に会って、一緒に月を眺めてたら2人共寝ちまったんだったな。
そんで今日みたいに探しに来た親に見付かって……。
「まさか……」
オレは裏山へと急いだ。
階段を駆け上がる。
最近この神社の境内には行ってなかったから忘れてた。
あそこの少し先にオレと美也子の秘密基地があった事を。
境内へと辿り着き奥を目指す。
途中、獣道に差し掛かると、細い枝が何本も折られてた。
折れた枝の葉っぱが瑞々しいから、折られたのは最近だと分かる。
崖になってる所を迂回して下に降りると洞窟があり、そこに美也子が両手で膝を抱いて蹲ってた。
学校の制服だし、鞄もすぐ傍にあった。
膝上丈のスカートで体操座りみたいな格好だから、白いパンツも丸見えだ。
「美也子……こんな所に居たのかよ」
美也子に近寄ろうと1歩踏み出す。
「来ないで」
美也子が拒絶の言葉を発した。
もう1歩踏み出す。
「来ないでってば!」
顔は伏せたままだ。
そんな美也子を月明かりが照らしてる。
洞窟とは言っても奥まで2mもない。
高さは3mくらいで、幅は5mくらいある。
洞穴と言うべきか?
そんな洞穴の真ん中に蹲った美也子に1歩ずつ近付く。
その度に美也子はヒステリックな拒絶の言葉を投げ掛けてくる。
すぐ目の前まで来た時には、美也子は啜り泣いていた。
それでも顔は上げてくれない。
美也子の目の前に座り込み、両肩に手を置く。
ビクリと美也子が反応するも、やはり顔は伏せたまま。
「昨日から……だよな」
美也子は啜り泣くばかりだ。
「その、オレの勘違いだったら聞き流してくれても良いんだけどさ。佐々木さん……」
佐々木さんの名前が出た途端に美也子がビクリと反応した。
あー……。
「あー、あのな。佐々木さんのアレは、美也子の反応を面白がってるだけだぞ?」
「知ってる……」
やっと反応が返ってきた。
「それに、巨乳にデレデレすんのは男の性だ」
「それも……知ってる……」
ソウデスカ。
ふぅ……。
1つ息を吐いた美也子の肩から手を離し、美也子の隣に寄り添うように腰を降ろす。
「なぁ、美也子」
「……なによ……」
「あん時の約束はまだ有効か?」
ガバッと音がするみたいに美也子が顔を上げてオレを見る。
月明かりに照らされた美也子の顔は見るも無惨に腫れぼったい。
随分長い事泣いてたみたいだな。
少しずつ視線が下を向き始める。
「約束……」
「美也子は忘れちまったのか?」
フルフルと首を横に振る美也子。
そのまままた俯いてしまう。
「忘れる訳ない……」
「じゃあ、今も有効か?」
美也子をじっと見詰める。
「美也子?」
左手で、俯いた美也子の頭を撫でる。
また反応がなくなった。
と、オレのスマホに着信が入る。
ポケットから取り出して見てみると、美也子のお父さんからだった。
通話ボタンを押して電話に出る。
左手は美也子の頭を撫で続けた。
「はい。えぇ、今、隣に居ます。はい。はい。その、えぇ。分かりました」
見付けた事だけ告げて通話を切る。
「お父さん、何て?」
「怪我とかないなら良いってさ」
「そう……」
沈黙。
美也子の頭を撫でる音だけが静かに流れる。
「……桃弥」
「ん?」
「ありがと」
「どういたしまして?」
頭を撫でてた手を離すと、美也子は立ち上がった。
オレも立ち上がる。
「帰ろ?」
美也子が言う。
腫れぼったい顔に薄く笑みを浮かべて。
「おう、帰って叱られよーぜ」
だからオレも言う。
無断で学校を休んで心配も掛けたんだ。
叱られるのは当たり前だ。
そしてオレと美也子はどちらからともなく手を繋いで歩き出した。
心配している家族の待つ家へと。
本日より1日2話の投稿になります。